The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


国際化・情報化

企画室長 寺田浩詔

 各界で,国際化・情報化が標語のように唱えられている.事の善悪,光と陰は別として,避けられないすう勢であろう.我が学会にとっても,学術の超国境性をいうまでもなく,国際化は喫緊の課題であり,これを有効に推進する上で,情報化が深く関連していることは,今更いうまでもないことである.

 学術団体にとっての国際化はいろいろな指標で測ることができよう.例えば,会員の構成,論文誌,国際学会の招致などの情報発信の様態,国際的提携関係などなど幾つかの物差しが挙げられる.我が学会でも,会員構成の点では,海外会員制度の導入以来,急速な海外在住会員の増加が見られ,その将来の動きが期待できる状況にある.更に,海外地域代表者制度も機能の開始が期待されている.また,情報発信の点でも,英文論文誌は年間1万ページを超える状況に達し,年々海外からの投稿比率が向上しているのも喜ばしい限りである.ちなみに,国立情報学研究所による,国際学術情報流通基盤整備事業(SPARC)の当面の対象刊行物として選定された,理工学系学会論文誌21種のうちの5編を我が学会の刊行物が占めている事実からもうかがえるように,少なくとも我が国の理工学系学会の中では,日本語以外の言語による,国際的情報発信に格段の努力をしてきたと自負してよいであろう.国際会議等の主催についても,それぞれの専門領域での御努力によって,相応の貢献をしていると認識している.

 しかし,海外会員数の比率は,ようやく5%程度に達したにすぎず,英文論文誌は,質的には引用回数指定を受ける評価を得てはいるものの,量的には有料購読部数は寥々たるものであり,満足すべき状態にあるとは決して言えない.現今の状況では,海外会員に対する便宜の供与や情報発信などは,専らネットワークを介して行われると考えてよく,我々が電子化と称して進めてきた,ネットワークによる業務の効率化と情報の収集・配布がより重要な課題として浮かび上がろうとしている.既に,数次にわたる,電子化方策の推進によって,会員業務をはじめとする事務処理や論文査読過程の情報システム化はある程度の進展を見せ,効率化が進んでいる.今や,我々が当面している最も大きな課題は,ネットワークを介する,論文誌などの情報の電子的頒布の問題であろう.

 既に,エレクトロニクスソサイエティによる,ペーパーレス研究速報英文論文誌(電子ジャーナル)の試行的発刊が4月に予定され,他の分野での同様な試みが続くことが期待されている.このすう勢は,始めに述べたように,止め難いものであるが,ネットワークによる情報集積と頒布の専門家集団であるはずの,我が学会がこの領域に乗り出すからには,単なる紙の代替としてではなく,電子的手段によらなければ不可能な情報提供手法を,世界に先駆けて,試行しなければと考えている.電子的手段でなければ実現できない情報提供形態の例は,以前に本学会論文誌に寄書したこともあるが,例えば,中間言語を策定し,これを媒介として,英語だけに限定せず,少数の人口にしか通用しない言語での統合的な情報疎通を図ることも可能であろう.

 もちろん,このような新しい試みには,幾つかの領域の専門家が,国境を越えて協力する態勢が不可欠である.我が学会が先導して公募型競争的研究資金を獲得し,このような国際・学際協力事業を推進することは,国際化・情報化の時代にふさわしい事業になるのではないかと考えている.単純な紙の代替にとどまる限り,本学会の経済的基盤を揺るがしかねない事態の発生も予想されるだけに,ぜひ新しい情報頒布様態の試みの積極的展開を願ってやまないところである.


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