The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


“はらはら・どきどきの学会へ”

総務理事 小林功郎

 本学会だけではないが,学会の会員数の減少が最近何年もの大きな課題の一つである.フェロー称号の新設,海外会員への新サービスなど,様々な施策,対策がとられている.ソサイエティ活性化基金の活用による各ソサイエティの活動も,ソサイエティの将来の発展をねらって大いに工夫がなされている.が,全体の減少傾向を上向きに転ずるまでには至っていない.学会は営利団体ではなく,いわば同好の士の集まりである.この観点からは,会員数が最大の関心事,最重要事項とは思われない.特に,団塊の世代の先頭がそろそろ第一線を退く年代に入りつつあり,それに続く世代の人口が徐々に減少する人口構成のもとで,学会の母体となる人口の動向を無視してまで,会員数増大を目指すのは適切とは思われない.もちろん,収支の健全性からは会員数の増大を目指すのが望ましいが,一方で収支が問題であれば,収入に見合う支出を制御すれば済むことであろう.この問題以外では,会員数が減るのは,上昇傾向を良しとする一般論からすると見栄えが悪いとか,気持ちが悪い,などという問題もあろう.これならば,考え方を変えれば済むことであろう.もっと大きな問題は,学会としての魅力が薄れたことの反映として,会員数の減少が現れているのではないか,という恐れである.

 学会の魅力,役割,御利益などは,場面により,人により,極めて多岐にわたる.小生は,学会の最も重要な魅力,役割として,臨場感あふれる議論の場の提供を挙げたい.より具体的には,いきいきとした活力あふれる研究会,総合大会,ソサイエティ大会などでの論文発表の場及び質の高い論文誌への論文投稿の場の提供である.こういう場への参加を通じて,学会の会員が成長していくことが実感できる場の提供である.ここで質問である.学会は,はらはら・どきどきする場を提供しているだろうか?大学の研究室の時代や,企業に入って最初のころ,初めて学会の研究会や大会で発表する前の不安,終わった後のある種の達成感と開放感を覚えている方も多いことと思う.同様に,論文誌へ投稿し,レフェリーからのレスポンスをどきどきしながら読んだ経験も多くの人がしていると思う.これらの“はらはら・どきどき”体験を通じて,研究者・技術者として伸びていくのではないだろうか.“はらはら・どきどき”の原点は,発表に対する他者の反応・レスポンスと,それに対する発表者の対応であろう.研究会・大会での活発な質疑応答,論文投稿に対する建設的な査読意見などがこれらに相当する.論文が出版された後の引用なども,他者からの反応の一種と考えられる.論文を発表しても何の反応もなければ,確かにつまらない.この観点で,ソサイエティの努力・工夫に期待するところが大であるが,学会全体としても検討,改善の余地が大いにあるように思われる.2年前のソサイエティ大会のエレクトロニクスソサイエティのプレナリーで,エレソの会長として,新フェローを含めた会場の皆さんに,次の2点をお願いしたことを覚えている.研究会,大会でぜひ質問を積極的にしてほしい.本学会の論文引用を積極的に行ってほしい.これら以外の様々な努力・工夫とも合わせて,魅力あふれる学会への道を探りたい.

 今,マスコミでは,日本プロ野球の球団合併話が大きな話題になっている.有力選手の海外メジャーリーグへの流出がその一因とされている.IEEEと本学会の関係と,一部似ている面があるかもしれない.研究者・技術者が世界で競うのは当たり前である.世界で戦える人材が育つ魅力的な“はらはら・どきどき”学会を目指していきたい.


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