The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


学会は「経験」,「発見」,「創造」が交わる「市場」に

監事 弓場英明

 IT社会の実力や競争力を比較した「グローバルIT報告2004-2005(世界経済フォーラム:3月9日発表)」では調査対象104か国中,日本は8位と,過去4年の同フォーラム調査結果で初めて10傑に入った.ADSLや光ファイバなどブロードバンドのインフラ環境が急速に進み,また第3世代携帯電話が普及しているとの現状からは,意外に低いと感じた.が,IT教育の質や環境整備なども含めた総合的観点からの指標で,シンガポール1位,米国5位,北欧の4か国が10傑に入っているとあれば,そうなのかと納得させられる.要は,個別技術やインフラの整備レベルの高さのみでなく,それを使いこなし,国としての底上げがされているかの比較である.

 このように日本は真のITの結実には道半ばとはいえ,着々とレベルが上がり注目度も高い.しかし,IT技術の高度化を担う電子情報通信産業分野を見渡すと,同分野の若手希望者減少,学会への加入者・加入企業減少といった問題がある.その原因を,ハングリーさが少ないからなどといった単純な推測で若手の責としては解決とならない.電子情報通信産業分野では,新しいことを「経験」し,新しいことを「発見」し,それに伴い新しいことを「創造」してゆく営みが,わくわくするような面白さであることを,学会の皆さんは熟知している.冒頭のグローバルIT報告の成果はこの面白さの集結であろう.この面白さを若い世代にも知ってもらい,共感を持ってもらい,大いに参加を促すことが学会の大きな役割と考えられる.

 学会は「経験」,「発見」,「創造」といった新しい成果や事柄といった「品物」を持ち寄る「市場」といえる.この「市場」では「品物」を持ち寄った人が相互に品定めをし,刺激し合い,寄せ集めて,わくわくするような面白さを満ちあふれさせてゆく.

 「品物」を見せ合う刺激で,新しい組合せによる「新商品」の発想がわき出す.「品物」の内容が変れば,当然,「市場」もその変化に合わせる.例えば,日持ちが短い「品物」が多くなれば,流通時間を短縮した商い形態に変える.「品物」の種類が増えれば新たに,分類・細分化して取扱い場所を周知する.また市場参加費用の支払い方法もどんどん変えてゆく.

 多くの人が集い繁栄するためには,知られ,注目されることが必要で,そのため能動的かつオープンなアクションが重要である.例えば「品物」の普及のための製品紹介や使い方キャンペーンも「市場」から行う.「市場」の将来拡張計画の道筋(ロードマップ)を示し,また計画の進歩状況も見せてゆく.ちなみに,現在,学会では,アジアを中心としたグローバル化,電子ジャーナル化,各種ソサイエティへの基金設立や独立採算化といった,活力あふれたアクションを次々と検討している.これらの状況を若手を含めた外部に広く発信し,大いに議論と意見をもらうといった施策が一層重要となろう.

 この「市場」は他の「市場」との交流も大いに行う.例えば,生物工学と情報通信分野の交流が活発である.ユビキタス技術分野は,経済学や環境分野との交流においても新しい研究開発課題が活性化している.また,技術分野のみにかかわらず,その利用形態の提案や,教育方向への提言も産・官・学の「市場」との交流で果たしてゆく.

 あそこに行くと何かわくわくすることがあると思われる活気あふれる「市場」に学会がなりつつある.これらを実現してゆくことにより,若手を含めた多くのプレーヤーがおのずから参加してくると私は楽観している.


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