The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


夢を創れるか

 九州支部長 長谷川 勉

 愛知万博やスペースシャトルの報道ぶりを見ても,「宇宙」と「ロボット」は子供や若者から大人にまで夢を与えることのできる数少ない科学技術分野であることが分かる.両者はいずれも国内産業規模は小さく,日本経済を支えるには程遠い.しかしブラックボックスや空想でなく実体として存在を感じることができ,しかもまだまだ手には届かないが,ロマンがある.そこに夢を抱くことができるのであろう.それらは総合先端技術であるものの,現在のところ大学でも学会でも機械系が中核になって担っている分野である.

 電子通信情報系の産業は,依然として日本経済を支える重要な産業である.しかし,産業規模は大きいものの,個々の企業に新しさや元気さがやや見えにくくなってきているのではないか.独自の技術開発による新製品を次々に投入しても,外国企業との競争は厳しいといった負の面が目立つ.工学部の入試における電子情報系学科への志願者の相対的レベルは近年低下しており,この分野が大学入学以前(直前)の年代の若者に魅力を感じさせなくなってきていることが分かる.子供のころからAV家電機器,携帯電話,パソコンなどに囲まれ,それらを当たり前のように使ってきた現代の若者に,ブラックボックス化したその中身の電子通信情報技術の先端性や,産業として国家経済を支えることの重要性を説いて,関心を持ってもらおうというのは難しい.大量生産で価格はどんどん低下し湯水のごとく身の回りにあふれているものに夢を感じないであろう.

 それでも自動車は相変らず若者を引き付けている.より速く,より遠くまで,そして自由に行動したいという人間の本能的欲求に根ざしている.しかも日本の自動車産業は全体としては世界をリードして元気である.自動車に限らず機械系産業の中には,電子情報系の先端技術を取り込んで価値を高め,安売りの泥沼に入り込むことなく,目に見える最終製品を作ることに成功している分野がある.電子情報系は,新技術を切り開き,その成果を諸分野に浸透拡散させて,それらを支えている.それゆえに姿が見えないのがつらいところである.

 1980年代から90年初頭にかけて,機械系学科は人気が低下し,学会も大学も危機感を持って改革にあたっていたように思う.その結果,機械系は大学でも情報を取り込んで新学科を作ったが,その逆はほとんど見当たらない.工学系で「宇宙」や「ロボット」を目指す受験生は,電子情報系ではなく機械系を目指すであろう.

 環境やエネルギーなどの制約があって,シンプルで分かりやすい議論は難しくなっている面もある.入学してきた学生であれば教育もできるが,敬遠されたのでは仕方がない.電子情報系は若い世代を引き付ける夢を創れないのであろうか?


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