The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


若い芽を花開かせよう

 監事 後藤裕一

 本年7月27日付読売新聞朝刊の『学生科学賞の高3石川さん 米で優秀賞 若い芽 花開く』という見出しの記事に目がとまりました.その主旨を同記事のイントロを引用して述べますと,「中学生,高校生が科学研究の成果を競う日本学生科学賞(読売新聞社など主催)の受賞者代表が今春,米国の科学コンテスト・国際科学技術博覧会(ISEF)で高い評価を得た.その背後には,科学を担う次世代を育てようという専門家の適切な指導の力があった.(片山圭子)」というものです.ISEFで日本からの参加者が優秀賞に選ばれたのは今回が初めてということであり,若い世代のこのような世界的活躍に心からの拍手を贈るとともに,多くの若者たちに後に続いてほしいと願うものです.今回の栄誉は,もちろん石川さんの研究成果が日本学生科学賞・研究部門の文部科学大臣賞に輝いた大変に優れたものであったからなのですが,同記事にあるようにその背後には専門研究者の指導による研究の厚みと精度の向上,更には発表資料や英語表現による発表力の磨き上げなどがあり,これらが大きな効果を上げたと報じられています.また,意欲と才能のある若者の直接指導に研究者らがスクラムを組む動きも具体化し始めているようで,幾つかのNPO(特定非営利活動法人)の活動も紹介されています.

 さて,このような活動に対して多くの優れた専門家を会員として有する本学会はどのように対応したらよいのでしょうか?会員の皆様も御存知のとおり,本学会においては会員の寄付金とボランティア活動を基盤に小中高生を対象とした「子供の科学教室」を平成8年度からスタートし,平成16年度には計24回のイベントに約900人の参加者がありました.今年度も20回を超えるイベントが計画・実施中であり,スタート以来これまでの参加者は累計で12,000人を超えています.この活動は我が国人口動態の少子・高齢化の流れの中で,将来の科学技術分野で中核人材となるべき子供たちの理科嫌いや理工系離れの傾向が進んでいることに対する深刻な危機感から,本学会としても科学技術に対して興味・関心を持つ子供の育成の一助として寄与すべく企画・実施されてきたもので,参加者からも高い評価を得ています.理科嫌い,理工系離れの問題は一朝一夕に解決できる問題ではありません.今後も会員の協力と支援のもとに,辛抱強く,より活発な活動が期待されるところです.この「子供の科学教室」が科学技術分野での若者育成の底上げを図る活動とすると,この分野に強い意欲と優れた才能を持つ若者を世界に伍するレベルにまで引き上げを図る活動に対しても本学会は今後寄与していくべきなのではないでしょうか.現状では,「子供の科学教室」を経験して理科や科学技術に興味を持ったとしても,その後のケアが欠けているために大学入学までには「やっぱり理工系はやめておこう」となりかねません.せっかく芽吹いた若い芽が,花を開くことなく枯れてしまう恐れがあるのです.これは実にもったいないことといえるのではないでしょうか.具体的にどのような方策が考えられるのかは今後知恵を絞って検討すべきと思いますが,幸い本学会には定年等を機にキャンパスや研究機関・企業を後にされた豊富な経験と優れた実績を持つ世界トップレベルの会員が多数おられます.このような会員のお力をお借りして,科学技術分野を志す若者たちに支援を行う何らかの仕組みや組織を作るのも一つの有力な方策なのではないでしょうか.皆さんの力で,芽吹いた若い芽を立派に花開かせようではありませんか.


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