大津 元一






図5 ピラミッド突起状二次元アレーを用いた光記録再生

記録媒体上にシリコン製作のピラミッド突起(左の電子顕微鏡写真)を滑らせ,
突起先端の近接場光で記録再生する.
 Super-RENS(Super-resolution near-field structure)と呼ばれ,記録媒体上に作りつけた非線形光学薄膜に伝搬光を照射したときに自己形成される微小開口により近接場光記録再生する方式,シリコン基板加工によるピラミッド突起状二次元アレー(図5),などによる記録再生が行われ,更には面発光レーザを用いた記録再生ヘッドの開発など,ファイバプローブによる点接触型から平面積層型へと脱却した近接場光技術が進展している.これらの方法は固侵レンズ(Solid immerion lens)のように光学の枠組みの中にとどまり回折限界に律則された方法に比べ,性能及び将来の発展性の点で優れている(以上の個別技術の詳細は文献(5)とそれに引用された各文献を参照されたい).これらのうちピラミッド突起状二次元アレーの中の一つの突起を用いた記録再生の予備実験の結果を図6に示す.

図6 近接場光による記録寸法と再生時の信号雑音比との関係

従来から用いられている伝搬光では記録寸法が約400nmになると再生不能.しかし近接場光では100nm程度になっても再生可能.

これはAgInSbTeの相変化媒体に記録再生した結果で,再生の信号雑音比を記録寸法に対して示してある.従来から用いられている伝搬光では回折限界のために記録寸法が約400nm以下になると再生不可能になるのに対し,近接場光では100nm程度まで小さくなっても再生可能であり,1Tbit/in2に相当する記録寸法25nmに向けた可能性が示されている.


 3.3 微細加工

 近接場光を使って既存のデバイス用の加工が試みられているのと同時に,2.で記した要求にこたえるために近接場光を使って動作する新しい高機能デバイスの加工が提案されている.このような新デバイスの例は3.2に記した超高密度光ディスクメモリと3.4に記すナノ寸法の光集積回路であり,これらの製作は既存の加工技術では不可能で,近接場光による加工が必須である.以下にはこれらの事情に注意しながら加工に関する現状を概説する(5).

(1) 既存のデバイスの製作にかかわる加工


 ファイバプローブを用いてリソグラフィー用フォトレジストへの露光が行われ,数十nmの幅のパターンが描画されている.また,短パルス光を用いたアブレーション,一括露光可能なスタンプ光リソグラフィーなどの技術が開発されている.


(2) 近接場光で動作する新デバイスの製作にかかわる加工(6)

 3.4で概説するように半導体量子ドットなどの微粒子表面に近接場光を発生させ,それを情報キャリヤとして信号伝達する光トンネルデバイス,そのための発光,スイッチング,受光デバイスからなるナノ寸法の光集積回路が提案されている.その製作には金属,誘電体,半導体などの異種材料を共通の半導体基板の上の希望する位置に,希望する寸法で作りつけなければならない.量子サイズ効果を援用するにはその寸法は約30nm以内,加工精度は数nm以内の必要がある.これらの要求にこたえる方法として,紫外域の近接場光を用いた光化学気相堆積が行われている.現在までに亜鉛金属の幅20nmの曲線(図7(a)),微粒子(図7(b)),青色発光する酸化亜鉛の微粒子(図7(c))などがガラスやサファイア基板上に堆積されている.使用する有機金属気体とそれを光解離するための光源の組合せにより,亜鉛のほかにアルミニウムなどの金属,絶縁体,更には化合物半導体の堆積が可能とされている.




(a) ガラス基板上の亜鉛の楕円ループ状の細線




(b) ガラス基板上の近接した亜鉛の二つの微粒子





(c) サファイア基板上の酸化亜鉛の微粒子

図7 堆積された微小パターン



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