【 アクセスネットワークの現状と将来展望 】

三 木 哲 也   篠 原 弘 道



 アクセス系への光ファイバ伝送技術の適用は約20年前までさかのぼることができる.1981年にNTTによる近距離の映像伝送サービス用に初めて光ファイバが使われたのが始まりである.その後は,高速ディジタル専用線,1.5Mbit/sのISDN,ATM (Asynchronous Transfer Mode)高速回線などのサービスが光ファイバ伝送技術によって提供されている.しかしながら,これらのサービスは主としてビジネスユーザ向けであり,量的にはアクセスネットワークの主流を占めるものではなかった.

 CATV事業者のネットワークは,以前にはすべて同軸ケーブルで構成されていた.同軸ケーブルネットワークはツリー型のトポロジーであり,サービスエリアの広域化に伴って幹線系は長距離となり,増幅器の段数が増加する.その結果,ネットワークの伝送品質と信頼性が劣化する.幹線系への光ファイバ伝送の適用は,伝送品質と信頼性を向上させる上で効果が大きく,光ファイバの幹線系と同軸ケーブルの支線系を併用する形態が定着した.これはHFC (Hybrid Fiber Coax)と呼ばれている.HFCは伝送帯域を拡大するためにも有効である.

  一方,CATVネットワークを用いて双方向のサービスを提供するには上り方向のチャネルが必要であるが,ツリー型トポロジーのために各端末からの雑音が合流して著しい伝送特性の劣化を招く.これを避けるため,単位となるツリー網の規模を500あるいは1,000ユーザ程度に限定することで合流雑音を制限する方法がとられている.この目的のためにもHFCは非常に有効である.既に,国内のほとんどの大規模CATVネットワークはHFC化しており,その多くにおいて,高速のIP通信サービスが提供されている.

 更に,最近のアクセス系のトピックスはワイヤレスネットワークの急速な普及である.我が国では昨年の3月に,携帯電話とPHSを合わせた加入者数が固定電話の加入者数を超えたという事実,先に述べたようにiモードなどモバイルインターネットの潜在需要の多さが証明されたこと,などからワイヤレスネットワークはアクセス系の今後を左右する最重要なものとなっている.

 以上のように,多様なアプローチでアクセスネットワークの発展が進んでいる.

 




■4. 拡大するIP需要に対応する多様なアクセスシステム

  IPサービスの提供をねらいとして,様々なアクセスシステムの開発・改良が進んでいる.開発中のシステムを含めると,対ケ−ブル,光(FTTH),HFC,固定無線,移動無線,衛星・放送波などの伝送媒体を用いるアクセスシステムがある.各システムの詳細については,本稿以降の解説記事に述べられているので,ここでは各システムの特徴を概観する.

(1) xDSL (高速対ケーブル伝送)

 対ケーブルを活用して高速ディジタル通信を行う方式の総称がxDSL (x Digital Subscriber Line)である.以前には,対ケーブルで数百kbit/s以上のディジタル伝送を行うことは困難であった.しかし,広帯域A-D変換器とDSP (Digital Signal Processor)の進歩により,高度な信号処理を駆使して伝送効率を飛躍的に高めることが可能となり,メガビットクラスの高速伝送が実現した.伝送速度や伝送形態の違いにより,xDSLはADSL,SDSL,HDSL,VDSLの4種類に大別できる.この中で,ケーブルの両端にモデムを追加するだけで容易にIP通信が実現できるADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line)が最も注目を集めている.ADSLは下り方向の伝送速度に比べて上り方向の伝送速度を小さくしているが,ホームユーザは通常,受信情報量に比べて発信情報量が非常に小さいため,このような方式が適している.


(2) FTTH

 各種伝送媒体の中で,光ファイバが高速化,大容量伝送に適していることは,言を待たない.しかし,光アクセスシステムを企業のみならず一般ユーザにも普及するためには,システムの低コスト化が重要な課題である.低コスト化を図る光アクセスシステム特有の技術として,PDS (Passive Double Star)という方式が適用されている.PDS方式は,光分岐回路を用いて複数ユーザがノード局におかれた光伝送装置を共用することによって低コスト化を実現するものである(注1).また,この方式は図4に示すように伝送路の共用と合わせて,IP通信では複数のユーザで帯域の共用も可能となることから,高速性と経済性を両立させる特徴ある技術である.IP通信のトラヒックがバースト性であることを考慮すると,ユーザに均等に配分した帯域の数倍のスループットを実現することができる.


-----------------------------------
(注1)
この方式はNTTとBTにおいてほぼ同時期に独立に提案され,それぞれPDS及びPON(Passive Optical Network)と名付けられたが,ここではネットワーク形態をよく表現しているPDSの名称を用いる.


図4 光の帯域共用技術
複数のユーザで帯域を共用する技術.
ネットワークが空いているときには保証された帯域以上で通信が可能になる.



3/6


| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.