3.2 今日の実時間CGを可能にした技術要因

  筆者らは,今日の実時間CG普及の主要因を,

@ 半導体プロセス,VLSI構成技術,H/W記述言語に代表されるCADなど半導体関連技術の著しい進歩
A OpenGLに代表されるデータベース記述の標準化
B PCあるいはゲーム機の普及による個人を対象とした市場の拡大

にあると考える.

 メモリの集積度,CPUのクロック周波数の向上には著しいものがあり,筆者らがFPGAを用いて試作したシステム(20)では,レンダリング部はボード15枚(1枚:45cm×32cm)程度の規模のハードウェアを要したが,ここで生成した映像と同等の映像(図1)をGraphics Synthesizer(25)はチップサイズで実現している.

 API(Application Programming Interface)の実質的な標準化が行われたことも大きな要因である.従来データベース記述は処理の高速化を図るため,各システムごとに専用のAPIが用いられていたが,昨今はハイエンドなシミュレータ用途を除いて,データベース記述としてOpenGLあるいはこれを下位APIとするツールキット,例えばPerformerなどを用いることが一般的になった.

 このAPIの標準化により,レンダリング部がチップ化され,OpenGL対応のPC用ビデオボードとして広く商品化されるようになった.PCでは,幾何計算はCPU上でS/W処理を行うことが一般的である.また,PC用高級ビデオボードとして,レンダリングチップに加えて,幾何計算チップを搭載したOpenGL対応のボードも市販されている.この分野は市場が広いため半導体化によるスケールメリットが生かされ,年率2倍のポリゴン表示性能向上(29)を持続している.したがって,PS2に見られる洗練された製品も極論すれば半導体化のスケールメリットに負う.




■4. 実時間CG技術の将来


 当初実時間CGはフライトシミュレータ用に限られていたが,現在ではヒューマンインタフェースの一手段として広く用いられている.これに伴い,各種の用途ごとに映像発生技術が多様化し分野ごとのすみ分けが起りつつあると考える.ポリゴン法による実時間CGは,シミュレータ,VR及びゲーム用途に用いられている.特に標準APIであるOpenGLの普及,またトラバース部を含んだAPIの標準化の動き等があり今後ますます高機能・低価格化が進むと予想される.高現実感が必要で視点移動が限られたVRにはイメージベースドレンダリングが用いられている.明確な形状を持たない物体や,三次元空間に分布する情報の表示を得意とするVGはサイエンティフィックビジュアライゼーションあるいは医療用途に用いられている.

 今日,計算機による模擬核実験に見られるようにシミュレーション技術が社会に大きく影響を与えている.このようなことから,物理現象に重きをおく映像発生法の実時間化が待たれる.一方,従来は映像発生とモデルとの間が開ループ(表示のみの意味)であったが,手術シミュレータ等の実現に求められているように,表示モデルが操作により変形・消滅・生成する必要から,両者が閉ループを構成する必要がある.このような新しいスキームでの実時間映像発生法が待たれる.  謝辞 執筆機会を頂いた会誌編集委員会,各種資料の御提供及び貴重なコメントを頂いた横浜国立大学土肥康孝,お茶の水女子大学藤代一成,三菱電機情報技術総合研究所亀山正俊,同システムLSI統括部井上一成の諸氏に深謝する.



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