●解説     雨宮 好文



 2.4 電界強度と電撃

 強電界中に非接地金属物体があるとき,これに電荷が誘導される.人がこれに接触したとき,指先を通って流れる接触電流による電撃を受ける.ICNIRP 1998指針によれば,接触を知覚し得る電流,接触時に痛みを生じる電流,及び離脱電流(この値を超えると触れた指を自力で引き離すことができない)の小児,成人女性及び成人男性を含めたしきい値は,ELF においてそれぞれ0.2〜0.4mA,0.9〜1.8mA及び8〜16mAである.また,電界強度と電撃の程度を直接示すデータとして表2がある.なお,電荷を持つ金属物体に接触しない成人男性が体表で感じる電界知覚しきい値は2〜10kV/mである.例えば5%の人に対する頭髪の振動の知覚しきい値は3kV/mである.




■3. ELF電磁界防護指針

  3.1 電磁界の周波数と作用・影響

 (1) 刺激作用と発熱作用

  2.では,ELF電磁界の刺激作用により人体組織の細胞が刺激を受け,結果として各種の生体影響が生じることを述べた.周波数1Hzから300GHzにわたる電磁界は,一般に刺激作用のほか発熱作用を持つ.表3は,刺激作用と発熱作用,これによる健康に有害な影響の種類,それが起きる周波数,これを防ぐための限度値を定める根拠となる基本制御量につきICNIRP1998指針の記述を表にまとめたものである.同指針は,この基本制御量を生じる外部電磁界強度,磁束密度等を逆算したものを,それらの限度値(同指針では参考レベルと称する)として示している.

 刺激作用の主な影響は中枢神経系の興奮性の変化であり,周波数帯1Hz〜10MHzで現れる.これを防ぐためには,外部磁界による誘導電流密度が4Hz〜1kHzでは1μA/cuを,また1kHz以上ではf /1,000 (μA/cu)を超えないようにする( f は周波数で単位はHz).

 発熱作用の影響として周波数100kHz〜10GHzで現れるのは全身的熱ストレス及び過度な局所加熱である.これを防ぐには,電磁界により生じる全身SAR (体重1kg当りの吸収電力を全身平均したもの)が0.4W/kgを超えないようにする.

 発熱作用の周波数帯10GHz〜300GHzで現れるのは体表面または体表近くでの加熱であるので,電力密度が5mW/cu等を超えないようにする.

 

 (2) 職業人と一般人

 職業人は通常は既知の条件下でばく露を受けており,また適切な予防措置を取るための訓練を受けている成人である.一般人(公衆)は電磁界のばく露に気づかず,あらゆる年令層と健康状態の人を含む.したがって一般人のばく露限度値は職業人のそれより厳しく(低く)定められた.

 上記の電流密度の限度値1μA/cu及び全身SARの限度値0.4W/kgは職業人に対するものであり,一般人に対しては安全係数5として,それぞれ0.2μA/cu,0.08W/kgと定められた.





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