藤 井 孝 藏

電子情報通信学会誌

Vol.84 No.6 pp.375-378

2001年6月
藤井孝藏 文部科学省宇宙科学研究所
E-mail fujii@flab.eng.isas.ac.jp

Paradigm Change by Computer Simulation:Computer Simulation Replaces physical Simulation? By Kozo FUJII, Nonmember (The Institute of Space and Astronautical Science, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, Sagamihara-shi, 229-8510 Japan).

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■1.は じ め に

 「計算機は風洞を駆逐するか?」本学会の方にはなじみが薄いかもしれないが,風洞とは模型を気流中に入れ,模型周りの空気の流れを計測する装置で,航空機や自動車,建築物などの気流解析(空気力学とか流体力学と呼ばれる)に利用される大型設備である.空気力学研究において計算機シミュレーションが急速に利用されるようになった

1980年代はじめ,果たして風洞は不要になるのかという議論が真剣に行われた.数値シミュレーションが進めば実験は不要になるかという議論である.最初の一文はそのときNASAの研究所で回覧された資料のタイトルである.幸か不幸かそれから20年,風洞はなくなることなく今でも盛んに利用されている.一方で,流体の数値シミュレーションも大きな進歩を遂げ,航空宇宙,機械,土木,建築,更には天体物理や電子工学などありとあらゆる理工学分野で利用されている.私達はこの研究分野を数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)と呼ぶ.なぜ,計算機は風洞を駆逐できなかったのか?ここでは筆者の専門である数値流体力学の現状を解説した後,今後期待される展開について話題を提供させて頂きたい.





■2. スーパコンピュータの性能向上と数値流体力学

 少し古い資料になるがスーパコンピュータの性能向上を図1(文献(1)の三好によるデータを再プロット)に示す.スカラ,ベクトル(図中○),分散メモリベクトル並列(図中●),最近では超並列(図中▲)とコンピュータアーキテクチャは変化しているものの,グラフが示すように計算機性能の向上は変らずおよそ10年で1,000倍となっている.実際にはこれに数値計算法効率化の効果が上乗せされる.HPCと呼ばれるこれら先端的計算機に対して,パソコンなどの性能向上はもっと顕著である.1970年代終りに登場した最初の汎用スーパコンピュータCRAY-1の性能は流体シミュレーションの実コードで実効およそ60-70MFLOPSだったが,現在重さ2キロ以下のモバイルパソコンがちょうどこの程度の性能である.つまり,私達はデスクトップスーパコンピュータどころかモバイルスーパコンピュータを手に入れたことになる.最近のPCクラスタ技術によれば8〜16台のPCを利用して1世代前のスーパコンピュータと同じ性能が出ることも報告されている.




図1 高速計算機の速度向上






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