中 川 正 雄



■4. OFDMとCDMAの融合方式

 以上の章ではOFDMとCDMAを別々に検討した.OFDMは優れたマルチパス特性を示すが,セルラで用いると,そのままでは隣接セルからの干渉があるので,セルごとに異なる周波数の割当が必要になり,周波数効率を悪化させる.一方CDMAは隣接セルでも同一の周波数を利用でき,周波数を有効に利用できるが,高速化に伴い,3.1の(3)に示したようなICIの存在が気になるところである.

  こうして,OFDMとCDMAの良さを備えた方式が広く研究題材として検討されている.CDMAによって周波数有効を図り,OFDMによってパスダイバーシチの問題点を克服するのである.この融合方式には大別して2種類ある。MC-DS-CDMA(Multi-Carrier-DS-CDMA)(10),(11)とMC-CDMA(Multi-Carrier-CDMA)である.前者は従来のDS-CDMAをマルチキャリヤ化したもの,後者は複数の搬送波を擬似ランダム系列と考える方式である.

4.1 MC-DS-CDMA

 図4はこの方式の送信側ブロック図である(11).データは直列からM個の並列データに変換され,シンボル長も引き伸ばされる.引き伸ばされたデータは拡散符号に乗算される.Cj(t)はj番のユーザの拡散符号を意味している.単一搬送波のDS-CDMAとはM=S=1(Sは重複数)の例であり,その場合の拡散符号のチップ長TC1と複数搬送波における拡散符号のTCの間には次の関係がある.

TC=MS+1/2TC1(2)

この関係式から,単一搬送波のDS-CDMA(SC-DS-CDMA)ではICIがあるもののパスの存在が分かるが,MとSの積の大きなMC-DS-CDMAでは,TCが大きくなり,パスの数を少なくして,ICIによる劣化を抑えることができる.また,重複数Sが十分にあれば,SC-DS-CDMAのRake合成よりも良い特性を示す.更に,データのISI(Inter-Symbol-Interference)があり,特性の劣化が起る場合はMを適当にとれば,これを除くことも可能となる.これは一般のOFDMと同じ原理である.文献(11)では以上の特性をユーザ間が非同期なCDMAチャネルにおいて解析し,M=S=1(SC-DS-CDMA)におけるRake合成よりも優れた特性を幾つも示している.MC-DS-CDMAは搬送波を複数持ちながらも,CDMAとしては時間関数としての拡散符号に依存していることに特色があり,従来のDS-CDMAの自然な拡張である.

4.2 MC-CDMA

 図5はこの方式の送信側ブロック図である.データはS個の搬送波に重複されて変調され,変調されたk番目の搬送波は定数Cjkによって乗算される.図5が図4と最も異なるのは,Cj1, Cj2,… ,CjSが時間の関数ではなくて,搬送波の順番k,すなわち周波数に対する関数であることである.CDMAの多元接続特性はこの周波数関数によって決まる.一般に,多元接続数を多くしようと思えば,Sを多くする.すなわち搬送波の数を多くする.この場合,搬送波間の直交条件からSに逆比例してデータのシンボルレートを低く抑えることになり,結局,スペクトル拡散のプロセスゲインを大きくすることになる.一方,マルチパスによるISIの影響を取り除くにはOFDMと同様にガードインターバルを挿入する.複数のユーザに対して直交するCj1, Cj2,… ,CjSが決まれば,MC-DS-CDMAよりも優れた特性が求まるが(12),ユーザ間で送信シンボルが同期していなければならない.もしもこの時間的同期が崩れると大きく特性は劣化するために,ダウンリンク(フォワードリンク)には適しているが,同期が困難なアップリンク(リバースリンク)には適さない方法である.隣接セルからのダウンリンク同士の干渉は非同期になるが,ロングコードを利用して干渉を減らせるのはIMT-2000におけるWCDMAと同じである.他方,MC-DS-CDMAにはユーザ間の非同期時の優れた特性があり,アップリンクに適した方法といえる.


図5 MC-CDMAの送信機  複数搬送波が拡散符号を表現.

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