■3. 気象要素のセンシング 3.1 風向・風速分布 大気の風の空間分布測定は広い分野で重要であり,以前よりヘテロダイン検波型(コヒーレント方式)ドップラーライダとして,波長10μmのCO2レーザや2μmの固体レーザを用いたシステムが開発されてきた(6).測定の原理としては,大気中のエアロゾルをトレーサとして後方散乱光のドップラー周波数シフトを検出して風速を求めるものである.これに対して我々は,更に高い感度と精度が期待される直接検波型(インコヒーレント方式)ドップラーライダの研究開発を行っている(7).散乱光をエタロンなどの高分解能フィルタにより周波数弁別を行っている.波長355nm のNd:YAG 第3高調波の紫外レーザ光を用いることによって目に安全なアイセーフ化を図っている.図4にそれによる水平方向の風速分布の時間変化の測定例を示す.これらの測定から肉眼では見えない風速分布とその変化や,ビームを走査させることにより風の方向も測定でき,ベクトル量として表示できる.このシステムによって,都市域でのビル風や山岳域での風系,空港での気流などの計測,航空機搭載による晴天乱流の検知,などの広い応用が期待されている. |
図4 水平方向の風速分布の時間変化 (波長355nm,平均出力0.6W,受信鏡直径25cm,福井大学(7)). |
3.2 気温,水蒸気(湿度) 高層の気温分布の計測にはレイリー散乱ライダによる分子密度より求める手法が利用されている.対流圏では回転ラマン散乱ライダが試みられている。水蒸気の測定法としては差分吸収ライダ(DIAL)とラマン散乱ライダがあり、後者が一般的になっている。 |
■4. 分子成分と今後のレーザセンシング技術
大気の分子成分の観測には波長可変レーザを利用する差分吸収ライダ(DIAL)が用いられ,NO2,NO,SO2,O3などの汚染分子の空間分布が測定されている.また,長光路吸収法により大気微量成分のCH4,CO,CFC(Freon)などの測定が可能となっている.また,LD励起による固体レーザ技術が進歩して,小型のライダ光源や光パラメトリック発振器により波長2〜10μmの赤外波長可変光源が実現可能になってきた(6).これを用いて,メタンなどの漏えいガスの小型リモートセンサが実現され,ガス爆発などの事故を未然に防ぐことができる. このようにレーザレーダを中心としたセンシング技術は従来のパッシブセンサでは得られない大気の広域情報や詳細な構造,ダイナミックス等の計測が可能となり,長期的な地球環境変動の解明や気象情報の診断と予測に画期的な役割を果たすものと予想される.更に,海洋や陸域環境の計測,災害予知などの分野への応用も可能で,極めて広範囲な技術であり,産業の創出にも役立つことが期待されている. |
■文 献
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