図7は送信ダイバーシチによる送信電力増加量とブランチ間不等中央値(ブランチ2とブランチ1の受信電力の比)の関係を示している.ここで送信電力増加量とは送信ダイバーシチ時における空間に放射される時間平均的な送信電力の増加量で,基地局側受信電力の増加量の期待値に等しい.図中の黒丸は並設ダイポールによって構成したダイバーシチブランチによる実験結果であるが理論とよく一致している.不等中央値が負のdB値の領域は人体の影響がない領域であり,正の領域はヘリカルアンテナが人体の指によって劣化している状態に対応している.図のように人体影響が大きい領域では送信ダイバーシチを行うことによって時間平均的な送信電力が大幅に増加し,基地局側の平均受信電力の向上が期待できる.


図7 送信ダイバーシチによる送信電力増加量HGとブランチ間不等中央値の関係
   (P1とP2はヘリカル及び内蔵アンテナの受信電力)



人体の電磁的影響に対する軽減手段としては,これまでアンテナのアレー化により放射指向性を人体と反対方向に向ける方法やそういった特性を有するアンテナが提案されている(12)〜(14).これらの方法はアンテナ単体の特性を人体との相互影響の観点から最適化を図った方法といえる.これに対して本稿で説明した送信ダイバーシチによる人体影響の軽減方法は,アンテナ,伝搬,人体,システムを統一的に考慮した結果として得られた手法といえ,これまでの視点とは異なった方法である.このように,携帯端末アンテナの高性能化のためには,アンテナ構造の最適化プロセスの中にアンテナを取り巻くこのような外部環境を積極的に取り入れることが有効である.


4.2 バランス型内蔵アンテナ


3.2で述べたPIFAは不平衡アンテナであり,きょう体電流を多く流す.このため手によってアンテナ特性が著しく劣化する(9).これを防ぐためには原理的にきょう体電流を流さない平衡(バランス)アンテナが有利である(15),(16).

図8は2個のPIFAによって構成したバランス型の内蔵アンテナ(BPFA:Balance-fed Planar Inverted F Antenna)(17)である.給電はきょう体内の平衡−不平衡変換器(バラン)によって行われる.したがって,それぞれのPIFAの給電点における電流位相差は180°となるのできょう体電流はキャンセルされる.図9はIMT-2000用として設計されたBPFAとPIFAのきょう体上の電流分布を比較したものである.図からBPFAではきょう体電流が大幅に減少していることが分かる.これにより,手によるアンテナ特性の劣化が緩和される.



図8 バランス型内蔵アンテナ(BPFA)の構成


図9 BPFAとPIFAのきょう体上電流分布の比較


BPFAのもう一つの特徴として通話状態における偏波特性がある.図8から分かるように,BPFAはきょう体上に,きょう体の軸方向に対して垂直に配置されたダイポールアンテナと等価である.通話状態では,きょう体は水平に近い角度で使用されるから,アンテナから放射される電波は通話状態において垂直偏波が主要な成分となる.基地局からの到来波は垂直偏波が主成分であるのでBPFAでは偏波の不整合による損失(偏波ロス)が小さくなる.

以上のような特性の結果として,BPFAでは人体が端末を所持して通話している状況におけるアンテナの動作利得が従来のPIFAと比較して大幅に改善される(17).






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