〔田崎〕
 今,有本さんが言うように,シャノンは理論的限界ということをやったけれども,そのままでは極限の話だから実用化にはならない.しかし,彼のアイデアはすぐにファノの符号,更にはハフマンの符号という有限の形に発展し,情報源符号化は見事に実用化の時代を迎えたということですよね.


〔有本〕
 一方,レートひずみ理論も,それは実はひずみ有りの情報源符号化も,本当はシャノンは早い時期に考えていたのでしょうけれども,あれは最初の1948年の論文にはないのですよ.


〔辻井〕
 だけど終わりの方に何か書いてあるでしょ.忠実度規範か何か.


〔有本〕
 だけど,それは何となく非常に分かりにくい.だから,それ以降1958,9年ころか,新たに論文を書かれている.だけど,それもあまり明確ではない.


〔田崎〕
 やはり59年のあの論文を読まないとはっきりしてこないんだけどね.


〔有本〕
 ところが,ひずみ有りの符号化は,工学的には大体意味が分かっても,それが数学的に何をやって何をしたらよいかというのがよく分からないのです.それで,あるときに,要するに横軸にひずみ量を取れば,縦軸がエントロピーになるのだということを,自分がきちっと頭の中で構築できたときに初めてよく分かるようになったんだけど,でも,それも逆に言うと,やはりバーガーの本の功績だと思うのです.非常に早い時期にバーガーがちゃんとレートひずみ理論の本を書いてくれたから非常によく分かります.レートと誤り率の関係が.


■動物のコミュニケーションへの応用


〔辻井〕
 シャノン理論の他への応用,動物のコミュニケーションなどはどうですか.


〔笠原〕
 最近頂いた韓先生のメールに情報理論にはいろいろな応用があるということが書かれていました.去年買い求めた「社会生物学」という本の中でエドワード・ウィルソンという人が相互情報量のことを書いていたことを思い出しまして,もう一度読んでみました….アメリカササゴイという鳥が縄張りを守ってまして,例えば羽を広げてふるわすと,その縄張りに侵入してきた個体が例えば退却するわけです.縄張りを守るAという個体がやる動作をXi,侵入者BがXiによって起す行動をYjとするわけです.それを10項目ぐらいに分けまして,ある事前確率が,攻撃的な信号を受け取ることにより,変化する有様を調べています.そしてこの測定結果から相互情報量を計算しているのです.

 面白いのは,アメリカササゴイという鳥は0.002bitぐらいなのですが,みなさんがお寿司なんかで食べておられるシャコというのはすごいんですよ.フトユビシャコの一種にスピナノラスというのがいるのですが,これは驚くべきことに0.021から8.56bitの攻撃的コミュニケーションをやっています.この「攻撃的コミュニケーション」の容量は人間が日常,使用している単語の符号容量とほぼ同じです.

 スピナノラスの攻撃的コミュニケーションの容量はまさに自然言語の符号容量に相当するものです.

〔辻井〕
 情報量と言わないでデータ量とか機能量とか言っておけばという話を何か書いておられるのですか.


〔笠原〕
 あくまでこれは記号量なのですね,攻撃的コミュニケーションというのは.だから,その意味内容までは深く立ち入ることはできず,表面的なのです.


〔辻井〕
 だから,言語なんかをやっている人から見ると,そういう意味で物足りなさを感じることは,長尾先生が朝日新聞の夕刊に,シャノンが亡くなったときのインタビューで「ある限界がある」と.それはそういう意味では当然ありますね.



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