〔甘利〕
 非常に面白いのは,シャノン流の情報理論というのはある意味で孤立しているわけです,もうできすぎちゃっていて.だけど最近はシャノン流の情報理論,それから統計物理学の非常に大規模な話,あれも一種の大数の法則みたいなものですけれども,もう一つは統計学,これも大数の法則みたいなものですよね.それがそれぞれ全然離れていた.だけど,今のLDPC,ガラガー符号とかターボ符号,あれなんか統計物理学,僕らは情報幾何の立場から,その基礎づけができる.

 そういう意味で,今,非常に大きな学問の変革が起っていて,そういうフィールドがむしろ一つになろうとしている.


〔有本〕
 ロボットをやっているとよく分かるのですが,人間が生まれてからどのようにして言葉を発声しながらだんだん他の人と対話ができるようになるのか.それは他人とかお互いの環境とか,その中のインタラクティブな世界の中からだんだんインテリジェンスを広げていく,その創造過程というのはまだモデル化されていないのです.そういったもののモデル化のための数学理論というのはあるのかないのかということをちらちらと考えるのです.


〔田崎〕
 音声学というものは,きれいに数学的に乗るというところまでまだいってないんです.しかし,これからはVLSIもできたから,信号処理的にはやれるようになり,これからだという気はするんですけれども.

 僕が一番最初に言ったけれども,シャノンの人柄という話,彼は音楽もデキシーなんか好きだったという話だし,クラリネットの名手でしょう.楽器もピアノとかいろいろと30個ぐらい持っていて,彼の音楽趣味はすごかったらしいんです.

 岩垂先生の話かな,一見すると全然風采が上がらないという話があったでしょう.


〔甘利〕
 掃除夫の親分が座っていたと.


〔岩垂〕
 僕の印象では,服装など全然おかまいにならないし,寡黙な方でした.我々が受講した大学院の授業,「Advanced Topics on Information Theory」というものはセミナータイプだったんで,その内容は我々が全部自分がやりたいことを話すわけです.例えば私の場合にはちょうどピーターソンの本を読み終ったのでBCH・ディコーディングのところをプレゼンテーションしました.学生のプレゼンテーションの後でもコメントみたいなことはほとんど言われません.他の学生に「質問はないか」って言って,「質問はない」と言うと,「じゃあ,これで終り」ということでずっときてましたね.

 先生自身がお話になるのも,最後にエニグマ暗号の話をされたのですが,どちらかと言うとボソボソッとした感じで.だから典型的な学者タイプの方のように私には見えたのです.

 だから,私は廊下で見間違ったのも,言い訳だけど,あながち無理でもなかったと.本当に失礼なことをしなくてよかったと,いまでも胸をなで下ろしていますけれども,私の印象は全部そうです.

 確かに,後で,1985年だと思いますけれども,ブライトンのISITに行かれたときなんかはもう少しきちんとした服装で,髪の毛もきちんと分けられていて,にこやかに談笑していらっしゃいましたので,そのときには「あれっ」と思いましたね.シャノン先生はずいぶん変られたかなというぐらいのむしろ印象の変り方だったです.

 ふだん,MITでお見かけしたときは,寡黙で,非常に目つきが鋭くて怖かった.


〔田崎〕
 ブライトンが最後ですか.


〔有本〕
 最後ではなくて,そこに突然現れて,その次が多分京都賞だったと思います.


〔辻井〕
 それでは,いろいろと面白い,また示唆に富んだ話を頂き,どうもありがとうございました.



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