〔辻井〕
 コストと言ってもいい,時間遅れもあるかもしれない.その当時は「あ,なるほど」と思ったんですね.それはモデムなんです.例えばアナログ電話の帯域が3kHz,SN30dBとすると30kbit/sぐらいになるわけです.それに近づいていこうとする.モデムのスピードが1.2kbit/s,2.4kbit/s,4.8kbit/s,9.6kbit/sになるにつれて,面白いのは,値段がちょうど倍々で上がっていくんです.「あ,これでやはりレートRと,誤り率Peと,コストCR-P-C 三者関係のつじつまが合うんだ」と.


〔有本〕
 なるほど,それでやっと分かる.


〔辻井〕
 ところが,今やモデムなんてただみたいに下がっちゃっているというところに,やはりシャノンの偉大さがあるなと.私は情報理論の講義をしながら学生に「非常識なことは困るが,破常識なことは大いにやれ」と,「情報源符号化は,モールス符号を持ち出すまでもなく,古来からあるのろし通信,例えば武田信玄の光ネットワーク900などに見られる符号化を美しく理論化したもので,不遜な言い方をすれば,常識的に理解できる.しかし通信路符号化は破常識の見本だから手本にしろ」と自分のできないことを学生に要求しています(笑).


〔有本〕
 そうなんですよ.逆に言うと,シャノンがどこまでVLSI化ができるという先見性を持ってやったのではないけれども,シャノンの一番の特質は,コンピュータの可能性だけはものすごく信じていたのではないかという気がするんです.どこかの本を読んでいたら,チューリング(Turing)が1944年に6か月ベルに行っていたんでしょ.


〔辻井〕
 ベルに行ってたんですか.


〔有本〕
 暗号の研究に.結局,両者がコンピュータの可能性を非常に深くディスカッションすれば,そういうことの前提の上にこのような理論が多分展開できるということを,かなり確信があったのではないかという気がするのですけれども.


〔辻井〕
 なるほどね.


〔有本〕
 チューリングの方は暗号については,むしろエンジニア的なセンスを発揮して,イギリスでは実際にリレー回路を作っていたんだから.エグニママシーンの改良版をチューリングが作ったんだから.

 逆にシャノンのいろいろな暗号研究はチューリングから受けたかもしれない.




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