電子情報通信学会会誌

Vol.85 No.4 pp.232-235
2002年4月
中須賀真一 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻
E-mail nakasuka@space.t.u-tokyo.ac.jp

A Challenge to Satellite by University Students:From Satellite Design Contest to Hand-made Satellites.
By Shinichi NAKASUKA, Nonmember(Graduate School of Engineering, University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).







■1. は じ め に
 

 近年,幾つかの日本の大学では,人工衛星を題材とした国際協力による学生の宇宙工学教育プロジェクトが極めて活発に行われるようになってきている.例えば,東大・東工大はこれまでにアメリカと共同で2年にわたってCanSatという350mlサイズの超小型衛星のサブオービタル(地球周回軌道ではなく,落下して地上に戻ってくる軌道)打ち上げ実験を行い,その成果を基にCubeSatと呼ばれる超小型衛星を製作中であり,2002年11月には,学生の手作り衛星がロシアのロケットで実際に軌道上に打ち上げられるまでになってきた.

 この,学生による小型衛星研究・開発の火付け役となったのが1993年より始まり,2001年に第9回が開かれた衛星設計コンテストである.学生は,そのコンテストへの参加を通して,衛星設計の知識とノウハウを培い,次のステップで実際の衛星の製作を行うという流れができてきている.

 本稿では,まずはアメリカを例に,大学衛星の宇宙開発への貢献を述べ,その中で,学生による小型衛星プロジェクトの意義を議論する.次いで,日本における衛星設計コンテストから手作り衛星への流れを概観する.特に,日米で進めてきたCanSat計画及びCubeSat計画とそこで獲得してきた技術・教訓を述べる.それらの経験を基に,大学による小型衛星活動の将来の展望をまとめる.


■2. 大学小型衛星の宇宙開発への貢献

 アメリカにおいては,国家が主体となって技術開発の舵取りを行い,国立研究所,大手メーカーに研究委託をするような,いわゆる「トップダウン型」の技術開発と,大学,ベンチャー企業が,独自のアイデアを基に試行錯誤的に新しい技術を研究開発し,それを大学を中心とした低コストで教育目的の小型衛星上で「気軽に」宇宙実証していくという,「ボトムアップ型」の技術開発がバランス良く行われ,宇宙開発の活力を生んでいるといえる.国側も,後者の有効性をしっかりと意識しており,後者の方式でたくさんの技術シーズが自由に生まれてくることを妨げず助長し,国はその中に,国としての宇宙開発のシナリオ,あるいは技術開発のロードマップに適合するものがないか目を光らせていて,良いアイデアがあると多額の援助(Grant)を行って一気に開発に持っていく.このような政策を何年もとってきた結果,優れたアイデアと技術を持った大学・ベンチャーは成長し,宇宙開発の一翼をしっかりと担うまでに成長してきている.同様なことは,ヨーロッパでも行われ,英国のサレー大学は1981年以来15機の衛星を製作し,近年は100名のスタッフを抱える衛星会社SSTLにまで発展し米国に衛星を売るまでに成長している.

 大学衛星は,宇宙工学を担う人材の育成の機会としても極めて重要である.工学教育においては,実際に作ったものが現実世界でどのような挙動をするかというフィードバックを得て設計・製作・試験を振り返ることが極めて重要であるが,地上のロボットやコンピュータとは違い,宇宙工学ではコスト・開発期間・打上げ機会等の問題より,そのような実践的教育が極めて難しい.しかし,短期開発で低コスト化が可能な小型衛星は,ミッションやシステムがいかにシンプルであっても,貴重なフィードバックの機会を提供してくれる.また,宇宙開発において重要な,多分野の技術のインテグレーションや人的資源・リスクのマネジメントの面でも,実践的な訓練の場を提供してくれるといえる.



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