■3. ナノテクノロジーの苗床と育成

 では,ナノテクノロジーにはどのようなものがあるだろう?それらは次のようなものに分けられる.(1)従来から普通のこととしてこの大きさを扱ってきたエレクトロニクスや材料の分野,(2)見直してみるとナノテクノロジーとして生まれ変ることのできる分野,(3)新規に登場してきた分野,などがあり,“至る所青山あり”と言ってもよい.表1に筆者が1999年にまとめたナノテクノロジーの分野を示す.これらは分野を制限したり規定するものではなく,その種を見つけたり,あるいは芽を育てるヒントと考えて頂きたい.もちろん,考慮の及ばなかったものもあるはずで,その責任は筆者にある.

表1 ナノテクノロジーの分野 − 技術分野 −
表1 ナノテクノロジーの分野 − 技術分野 −


 さて先にも述べたように,日本政府は科学技術政策の一環として,総合科学技術会議においてその重点分野を選出した.ナノテクノロジー・材料分野,情報技術(IT)分野,エネルギー分野,バイオ分野の四つである.2001年9月にその報告書が出され,2002年4月からその予算投下が各関係省庁を通じて開始された.ナノテクノロジー・材料分野は総額1,200億円,ナノテクノロジー分野への抽出分は約820億円になる見込みである.この経緯を図2に示す.同図には,アメリカの全米科学財団(NSF)のナノテクノロジー分野への予算とともに図示した.米国では,NSFは基礎科学関連を主としており,バイオ関連では全米健康保省傘下のNIH,軍関係ではDARPAが前記とは独立に巨大な研究投資を行っており,ナノテクノロジー技術に関連する総予算は更に大規模と予想される.各省庁への2002年の配分額を図3の楕円の大きさによって示す.元々,この分野への日本の取組みは早く,多くの研究投資がなされてきたわけで,ナノでは世界をリードしているといっても過言でない.

図2 ナノテクノロジーへの予算 日本の予算と全米科学財団(NSF)

図2 ナノテクノロジーへの予算

日本の予算と全米科学財団(NSF).

 

図3 日本のナノテクノロジー予算の大きさ・プログラムの一例と各省庁の割合

図3 日本のナノテクノロジー予算の大きさ・プログラムの一例と各省庁の割合


 文部科学省及び日本学術振興会においては,科学研究費補助金によって研究者の自由な発想に基づく研究支援を行っている関係で,ナノテクノロジーを特定した予算額の切り分けが必ずしもやさしくない.そこで,日本学術振興会が1996年から実施してきた未来開拓科学技術振興事業の2000年分のナノテクノロジーと関係がある分野へのテーマと予算を抽出した.およそ年間22億円ほどであり,同事業全体の10%強であろうか.これらは5年間の研究期間をほぼ終了しつつある.その後のナノテクノロジー関係の振興は,科学研究費補助金を中心とする公募型競争的研究資金による基礎研究支援により進められている.


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