電子情報通信学会誌

Vol.86 No.5 pp.298-303
2003年5月

安西祐一郎 正員 慶應義塾大学

Social Infrastructure in the 21st Century and Human Interaction with Environments. By Yuichiro ANZAI, Member (Keio University, Tokyo, 108-8345 Japan).



はじめに 21世紀の社会基盤と人間・環境インタラクション 安西祐一郎




 本稿では,これからのITが,安心で安全な生活基盤の設計,構築,管理,運用にかかわるべきであること,このことは,供給側の要素技術から需要側のシステム技術へ,という先端技術の大きな転回の中にあることを述べる.また,新しいシステム技術の例として,「知的社会基盤工学」及び「人間・ロボット・コンピュータインタラクション」の研究開発について述べ,こうした新しい方向の技術に関する基本的概念として「インタラクション」と「デザイン」の二つの概念が重要であることを述べる.
キーワード:IT,知的社会基盤工学,ロボット,インタラクション,デザイン


■1. 自己改革とオリジナリティ


 今の日本に最も必要なことは,「自己改革」と「オリジナリティ」である.政治,行政,経済,社会,家庭,教育はもとより,産業界,学界,科学技術の世界において,日本新生のために,自己改革とオリジナリティが求められている.

 このままでは日本は欧米列強に征服されてしまう,と危機感を持ったのは幕末の有為の人々であった.戦後復興期に,多くの国民の反対を超えて経済復興と安全保障の戦略を断行したのは,その当時の有為の人々であった.現在問われているのは,今混迷の時代に,有為の人々とはだれか,そういう人々が再び現れているかということである.

 今日本が国際社会の中で家族のない国になっていることは「だれにも陽には見えない」.ところが一方で,大衆評論的な二番せんじの情報は情報ネットワークのお蔭で「だれにでも手に入る」.東京近辺の例でいえば,1853年浦賀に黒船来航,1945年東京大空襲のころと異なるのは,日本の状況がだれの目にも見えにくいこと,だれでも二番手の情報は手に入ることである.黒船も空襲も目には見えたが日本中の人々に情報が流布するには時間がかかったのに比べると,基本的な相違がある.

 こういう現在に最も求められることは,あらゆる分野,あらゆる組織(学会も,大学も)が,表面的・偏見的な情報に振り回されることなく,自己改革とオリジナリティを持ってその分野や組織の新生を図ることである.混迷を極める今という時代を超えて日本再生に貢献していくことは,これからの技術者の最大の役割の一つであり責務でもある.

 日本の電子・情報・通信関連技術においても,現在求められているのは自己改革とオリジナリティである.とりわけ,IT,生命科学,環境,ナノテクといった伝統的分野の枠を超えて,日本から真に発信でき,あまねく世に行きわたる技術の発想と技術戦略が求められている.




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