電子情報通信学会誌

Vol.86 No.7 pp.520-526
2003年7月
末武国弘 正員:フェロー 東京工業大学名誉教授
Better Presentation Methods at the Poster Session. By Kunihiro SUETAKE, Fellow (Emeritus Professor of Tokyo Institute of Technology, Tokyo, 152-8552 Japan).


[ポスター セッション]のより良い演出方法 末 武 国 弘

■1. [ポスター セッション]の意義と本質

 1.1 [ポスター セッション]とは

 最近,学会等で[ポスター セッション]を行う機会が増えてきた.その原因の一つに,学会発表の希望者数が増えたために《定められた期間内に,すべての希望者のプレゼンテーションを行うことが難しくなったからである》ことが挙げられる.

 もともと〔セッション(Session)〕は,学会活動の特別活動のことで,米国のIEEEのMTTの国際会議では日本人の発表論文が優れているからとて,毎年わざわざ〔Japanese Session〕を設けて,それだけで数会場を抑えて行ったことがあったし,東工大では,夏休みに入った第一週に[サマー セッション(Summer Session)]を設けて,特別講義を行ったことがある.

 ところで,中には,[ポスター セッション]を[投稿論文]や[講演発表]に比べて,一段と低いレベルにあるかのように取り違えて採る方も少なくない.

 しかしながら,決してそうではなく,[ポスター セッション]は,以下に述べるように,むしろ,もっと大きなメリットがあるので,もし読者に,そのチャンスが与えられた場合には,それを十分に生かして,研究者としての自己の成果を発表するための《たいそう良い[機会]と[場]》であると採って頂きたいのである.

 更にまた,最近は,この[ポスター セッション]が様々な研究機関での〔新しい研究成果の発表〕や,企業などでは〔新開発製品の紹介発表〕の場として,この[方式]を採る[イベント]も増えてきている.

 さて,この[ポスター セッション]は,通常,学会の場合には,それが開かれる会場の建物の中の幾つかの部屋(学校の場合は〔教室〕とか,その〔廊下〕など)が当てられ,企業などでは,その会社やホテルなどの〔大ホール〕を《イベント会場》として使用する場合もある.

 その会場には,図2中に示すように[衝立]を並べて,これに[説明図面]…すなわち【ポスター】を貼りめぐらして説明するのが基本であるが,またその前に机を並べ,〔発表者〕が製作した[印刷資料]を卓上に置いて,ここへの参加者に自由に取ってもらうようにしたり,場合によっては[実験装置や新開発製品]などをその上に陳列して実演して見せるようにすることも多い.

図1 ポスター セッションの会場風景と図2 ポスター セッションの会場レイアウトの一例

図1 ポスター セッションの会場風景 図2 ポスター セッションの会場レイアウトの一例
    (P:壁面に貼った[ポスター],Q:台)

    
 1.2 その[メリット]と[デメリット]

 一般に研究成果を発表する場としては,普通次の三つがある.それらの特徴と効果を調べると…

(1)
 学会誌に掲載される[投稿論文]:この場合は,その読者である〔受け手〕は,不特定多数であるから,必ずしも〔発表者〕の研究内容に興味を持っているとは限らないし,第一,システム的には《一方通行》なので,情報伝達効果としては不完全であると言ってよい.

(2)
 大会での[講演発表]:この場合は,最後の《質疑応答》によって,双方向のコミュニケーションは一応はできるが,充分な時間が取れない欠点がある.

(3)
 [ポスター セッション]:これは上記の二つに比べると,まず〔参加者〕は『これは面白そうだ! 一体これは何だろう?』と,〔発表者〕に近づいてきたり,あるいは,中には『これは,今,自分の抱えている問題と大いに関係がありそうだ!』と惹かれて寄ってくる場合もあるので,かえって〔送り手〕と〔受け手〕との間に良いコミュニケーションを創り出す【最高の場と機会】を作れることが多い.

 したがって〔発表者〕は〔受け手〕との間で【充分に時間を掛けて詳細な説明ができる上に,良い意志交換をすることができる】など,大層大きなメリットがある.

 更に,その意見交換を通して,逆に〔送り手〕は自分が気付かなかった【研究遂行上の良いヒント】や【思いもよらぬ欠陥】を知ることもできる.

 また,発表者が学生の場合には,自己の就職活動の一環として,そのプロモーションの良いチャンスともなる(アメリカの大学の場合,この機会は非常に大きい).

   参考:付録の【エピソード(1)】参照

 ところで[ポスター セッション]では,発表者は長時間立ち通しとなるので《デメリットとして,肉体的に疲れる欠点がある》ことを,十分覚悟する必要がある.

 しかしながら,とにかく,時間の制約なしに,自分の研究成果を十分に発表できることは,発表者にとって大きな満足感を得ることは確かなので,敬遠せずに,積極的にこれに参加する努力を惜しまないで頂きたい.


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