電子情報通信学会誌

Vol.86 No.11 pp.884-888
2003年11月

生駒俊明 正員:フェロー 一橋大学大学院国際企業
 戦略研究科

"21st Century Center of Excellence" Program. By Toshiaki IKOMA, Fellow (Graduate School of International Corporate Strategy, Hitotsubashi University, Tokyo, 101-8439 Japan).


5.大学での研究プロジェクト 21世紀COEプログラム 情報・電気・電子分野の21世紀COE,審査の立場より 生駒 俊明


Abstract 文部科学省が昨年から発足させた世界水準の研究拠点育成プログラム(いわゆる21世紀COEプログラム)の制度設計及び審査に携わったものとして,電子情報通信分野の拠点育成の趣旨や審査の様子,これからの期待などについて,個人的な見解を述べる.
キーワード:21世紀COE,電子・情報・通信分野,世界水準の研究拠点


■1.文部科学省主導の大学改革

 大学改革は正に正念場を迎えている.国立大学の独立法人化も現実のものとなり,非公務員化の動きと相まって,今までの国立大学にかなりの自由度が与えられる.そこで99の国立大学が私立大学と同じ市場に参入し,様々な経営方針を模索することによって学生本位の教育を本気に指向し,研究や産学連携についても私立大学と競争し始めるだろう.そうなれば,日本の大学は皆激しい浮沈競争に巻き込まれる.これに拍車をかけるのが言を待たない少子化の動きである.この淘汰の時期に大学の質の改善がなされることを期待するものである.一方産学連携が国を挙げて奨励され,大学を巡る様々な規制が撤廃あるいは緩和されてきた.大学発ベンチャー1,000社達成という号令がかかり,産学官を挙げて産学連携が推進されている.大学人が自力で大学改革を実行できる環境が整いつつある.

 文部科学省(以下文科省)は国立大学の法人化及び規制緩和に伴い,できるだけ大学の裁量に任せ干渉しない姿勢を随所に示している.しかしここ数年の間に大学人は自主的にものを決め,自発的に行動を起す習慣をなくしているように見える.常に文科省の御機嫌を伺い,文科省の方針に従って動こうとしているように見受けられる.文科省はボールを大学に投げたつもりでいるが,大学側はいまだにボールが手中にあるとは気が付かず,いつでも文科省が決めてくれるものと思っている.今こそ大学は自らのあるべき姿を社会に向けて発信し,行動してもらいたい.

 このような背景の中で平成13年6月に唐突に発表されたのが,俗に「遠山プラン」と呼ばれる文科省主導の大学改革案「大学(国立大学)の構造改革の方針」である.遠山プランには三つの具体的な大学改革の方針が盛り込まれていた.その中の一つが「国公私「トップ30」を世界最高水準に育成」というもので,大学を世界的な水準に引き上げるために,国公私を問わず上位から30くらいの大学を選び,重点投資するというものであった.遠山プランそのものが唐突にトップダウンで出されたという印象を与えた上に,この「トップ30」は国が大学をランク付けするものということで大いに議論を呼んだ.多くの新聞が反対の論調で記事を書いた.また大学からも大学の序列化につながる,私立大学までも文科省がランク付けするという反対意見が多く聞かれた.中央教育審議会の大学分科会でもプラン全体に関する意見交換が活発に行われた.特に「トップ30」に関しては文科省の意図が必ずしも確定しておらず,会の中でもいろいろな意見が出て珍しく議論が沸騰した.そのような外部の批判と分科会での討論を経て改めて文科省が出してきたものが俗にいう「21世紀COEプログラム」である.その真意は「各学問分野ごとに世界最高水準の研究拠点を育成し,世界的に優れた研究成果を挙げるとともに,次世代に向けての優秀な研究者,高級技術者を養成したい」というものである.その意図に反対のあろうはずがなく,「各学問分野ごとに世界水準の研究教育拠点(COE)を育成するプログラム」という風に落ち着いたわけである.その間具体的な募集要項作りや審査基準に関しても随分議論がなされた.しかしあくまでも「世界に通用する優秀な研究成果を挙げること,そしてそのような研究遂行を通して優秀な若手研究者を育てる」ことが目的である.しかも,その研究拠点はある「適切な学問分野」をカバーしていること,そしてこのプログラムの終了後にもその大学にそのような拠点が組織として存続し,研究教育を継続して行うことなどが一種の必要条件として認識されている.



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