■3. アプリケーションレベルのサービス連続技術

 アプリケーションレベルのサービス連続技術として,筆者らが提案しているシームレスサービスプラットホーム(5)やSIPを用いたサービスを連続させる技術(6)などがある.これらは各端末にプロキシなどが配置され,それらが構成する仮想ネットワークがアプリケーション間の通信経路を変更していく.ここでは,シームレスサービスプラットホームに関してその概略を説明する.

 シームレスサービスプラットホームにおける仮想ネットワークの構成を図2に示す.各端末にはシームレスプロキシ(用語)が配置され,従来のトランスポート層で作られるネットワークの上にオーバレイすることで仮想的なネットワークを構築している.アプリケーション間で行われているデータの送受信は複数のシームレスプロキシによって中継される.

図2 シームレスプロキシによる仮想ネットワーク

図2 シームレスプロキシによる仮想ネットワーク
各端末上にシームレスプロキシを配置し,トランスポートネットワーク上位に仮想ネットワークを構築する.シームレスプロキシ間のネットワークの変化はアプリケーションに隠ぺいされるとともに,シームレスプロキシ間のつながりを自由に変更することで利用アプリケーションを変更することができる.


 シームレスプロキシは送受信するデータを蓄積転送するので,シームレスプロキシ間の通信が切断された場合はほかの複数の通信手段から利用可能なものを選択し,再接続,再開することが可能である.例えば,シームレスプロキシ間を有線LANの接続から無線LANの接続に移行することができる(7).これらの機能はIPレベルのサービス継続技術でも実現できるため,これらと併用したり,IPレベルのサービス連続技術が利用できない場合に利用することができる.

 また,通信データを中継するシームレスプロキシのつながり(経路)を変更することで,ネットワークトポロジーの変化により,経路が冗長になった場合にはより短い経路に移行することができる.

 更に,シームレスプロキシは中継されるデータを解析したり,アプリケーションに問い合わせたりすることでアプリケーションの状態やプロトコルの通信状態を把握する.これらの状態をほかの端末のシームレスプロキシに転送し,このシームレスプロキシが,転送された状態をもとにアプリケーションを起動することによって,サービスを中断することなく,端末間でサービスを移動させることが可能となる.図2で端末Cと端末Aのアプリケーションが通信している状態から端末Dと端末Aのアプリケーションが通信している状態に変更した例を示している.

 実際のサービス例としては現在接続している映像配信アプリケーションがネットワークから切断され,映像の配信が中断した場合に,同一の映像配信が可能な別の映像配信アプリケーションが中断したところから映像配信を再開したり,ユーザがオンラインショッピング中に外出する際,利用端末をデスクトップPCからPDAに切り換えたりすることが考えられる.

 このように,サービスはそれを実現するアプリケーションを変更しても継続し,サービス間の通信の抽象概念であるセッションは維持される.

 各シームレスプロキシはOS上位に実装すればよく,Java VMなどを利用することで,同一のプログラムを多くのOS上で動作させることができる.これはユビキタスサービス環境で想定される多様な端末を扱うためには重要なことである.

 筆者らはHTTP(Web, ストリーム配信)とTelnet, FTPに対応したシームレスプロキシの実装を行い,実験を進めている.実験結果から,端末のIPアドレスの変更(端末の移動)で通信データが途切れる切断時間は 400ms以下,端末間の切換(サービスの移動)で切断時間は1秒程度で実行可能なことが分かった(5).これは,TCPのデータ送受信で見た場合,IPレベルのサービス連続技術と比較してもそん色のない値である(3)

 シームレスプロキシを様々なプロトコル,アプリケーションで利用するためにはそれぞれに対応した実装が必要となるが,これを外部モジュール化することで,シームレスプロキシの基本機能は共通的に利用可能である.また,既存のプロキシ非対応のアプリケーションでも簡単なラッパープログラム(用語)を介在させることで,操作性を損なうことなく利用することができる.このように,プロトコルやアプリケーションに特有の動作を記述することで,ユーザの利便性は高まる.



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