■ 2. 砂粒チップ「ミューチップ」

 ミューチップは図1に示すように,ユビキタス社会を実現するために重要な役割を果たすと期待される電池なしで動作する無線タグ(用語)用の超小型のICチップである.図のようにミューチップの平面サイズは指紋の幅と比較できるほどで,その小ささが実感できる.砂粒チップというのはミューチップを表すニックネームともいえる.元々ミューチップは,1998年に日立製作所社内でIC技術を紙幣などの有価証券の偽造防止に役立てられないかという課題提起から始まったものである.そのとき,薄型ICカード(1)の提案を行っていた中央研究所の筆者に声がかかったのがミューチップ発案のきっかけとなった.筆者が当初重要開発課題と考えたのは,紙幣という薄型媒体とICチップの関係であった.一般にICカードの技術開発者が頭を悩ます問題の一つとして,ICチップのストレスなどに対する機械的強度をいかに確保するかということがあり,各社様々な工夫をこらしている.紙などのICカードよりもはるかに薄い媒体に対応するには,図2のように,ICチップサイズを0.5mm角以下にすると機械的強度(ここでは機械的強度の典型的な度合いを示す耐衝撃強度)が向上する.これは,ミューチップ開発においてICチップの超小型化開発路線をとることとした大きな動機である.また,超小型のICチップであれば,ポアソン離散確率分布則に従うウェーハ内のICチップの歩留りを向上できることも魅力であった.


図1 世界最小の無線ICタグチップ「ミューチップ」
ミューチップ(0.4mm×0.4mm)  

図1 世界最小の無線ICタグチップ「ミューチップ」
ミューチップはユビキタス社会を実現するために重要な役割を果たすと期待される電池なしで動作する無線認識用の超小型半導体チップである.ミューチップの平面サイズは指紋の幅と比較できるほどで,その小ささが実感できる.



図2 超小型チップによる強度向上

図2 超小型チップによる強度向上 
ミューチップは紙幣,商品券,株券などの各種有価証券に埋め込まれて使用することを目標としているために,機械的強度確保を薄型媒体においても実現する必要があり,そのためにチップサイズの低減が有効であることが分かった.


 ミューチップのもう一つの開発思想はインターネットを活用するための最小のハードウェアを提供することであった(2).従来,無線タグ用のICチップというと,書込み形メモリを比較的大容量に持つことが多かったが(3)〜(5),ミューチップでは,128bitのROM(Read Only Memory)のみである.メモリ内容は製造段階で書き込まれるために,過去,現在,未来にわたり,同一の番号が書き込まれることはない.ミューチップはICチップサイズが0.4mm×0.4mmと小さいことが大きな特徴であるが,併せて番号がユニークであることも大きな特徴である.このことにより,インターネットのデータベース制御を混乱なく実現できるよう保証している.ミューチップの認識番号により,世界中のデータベースと瞬時にリンクすることが技術的に可能であり,人ともののネットワークサポートを必要とする多様なアプリケーション展開が可能となる.最小の無線タグ用のICチップを実現するため,ミューチップは簡潔な機能構成で設計されている.また,使用しているIC技術は0.18μmのCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)デバイス技術であり,配線層数は3層である.特殊な素子を使用せずに2.45GHzの周波数で動作させている.マイクロ波帯のキャリヤ周波数を使用しているため,アンテナは小型でかつ薄型である.

 図3は,ミューチップを埋め込んだカードをリーダに近づけ,パソコンに読取り結果を表示している様子を示している.ミューチップはバーコードのように様々なものに張り付けられたり,また,埋め込まれたりして,正確にかつ速やかに認識する技術として活用される.


図3 ミューチップによる自動認識システム

図3 ミューチップによる自動認識システム 
ミューチップを埋め込んだ紙媒体をリーダに近づけると,リーダはミューチップ認識番号の自動読取りを行う.インターネット技術とリンクすれば,即座に番号に対応するホームページを呼び出すことも可能である.


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