■2. 標準――業界標準・国内標準・国際標準――

 ボルト・ナット,乾電池,カメラのフィルム,CD/DVD等に国際標準がなかったら,我々はとても今のような生活を享受できないであろう.それらの中には,規則や法律にはしっかりと書かれていなくとも多くの人が従っていて“事実上の標準”となっているものもある.そのようなものはde facto[de fákto]standard(デーファクト―標準)と呼ばれる.他方,きちんとした規則で定められているものもある.de jure[dere]standard (デーユーレ―標準;これを“デジュール”と読む人が内外で少なくないが,それは誤り.英語読みの[dei dúrei]に近くしたいのならせいぜい“デジューレ”くらいか.英語の辞書も引いて下さい)である.

 何もかもがボーダーレスになってきている近ごろ,標準は国際貿易にも関係が深くなっている.国際的に認定されている標準に従っているものを一国が勝手に定めた規格に適合しないからといって輸入制限をすることは,原則的には,“非関税障壁”だと見なされ非難される.国際標準を扱っている国際機関としては,本学会に身近な電気・電子技術の標準を扱っているIEC(=International Electrotechnical Commission)や通信分野のITU(=International Telecommunication Union)が歴史が長くよく知られているが,もっと幅広く工業全般にわたっての国際標準を扱っているのは国際標準化機構(ISO=International Organization for Standardization)である(ISOの歴史は比較的短くその活動開始は戦後の1947年であるという).

 ISOの活動は初期には比較的狭い意味での工業製品の規格に関するものであったが,次第によりソフトなものも対象にするようになってきている.品質管理関係のISO9000シリーズや環境管理関係の同14000シリーズは最近我が国でも広い関心を集めている.度量衡の国際単位系(SI=Système International d'Unités)はやっと我が国に定着してきているようである.“数学記号”,“量記号・単位記号”などについての ISO規格もあり,それらは学界,出版界などにおいても,世界的に行き渡っている.(大雑把にいって,それを無視しているのは,学会関係では,IEEE, AMS(アメリカ数学会)とその関連者だけ?)

 日本国内では,農林・水産・食料関係のJAS規格はほとんどの一般消費者に知られているが,本稿に関係するものは,もちろん,いわゆるJIS(日本工業規格,Japanese Industrial Standards)である.もちろんJISは日本の国内標準であり,日本の国情に即して多くの規格群が整備されているが,上に述べたように,国際標準が既に存在する,あるいは作られつつある分野についてはそれと整合していることが望ましい.例えばISOの中に,あるテーマを扱うTC(Technical Committee:技術委員会,専門委員会)が設置されると,それに対応した国内審議団体,国内委員会が設けられる.国際的な標準作りの作業にもそのTCの正式メンバーとして日本が加わることが多い.

 原則的には,JISは国家の規格ではなく民間の規格であるということになっている(ISOについても同様).ISOには多くの国からその国を代表する組織(政府としてではない)が加盟している.日本ではJISC(Japanese Industrial Standards Committee:日本工業標準調査会)がそれに当たる.JISCはJISの制定・改正をはじめとするJIS全体の重要事項を扱い,国際的には日本を代表する.JISCの事務局は経済産業省にある.

 余談になるが,“標準”と“規格”とはここでは厳密には区別せずほとんど同義語として用いる.欧米では対応する言葉として“standard”と“norm(e)”と二つの系統の言葉があるが,standardは英米語で用いられるだけで(英米語ではnormも用いられる),他の言語ではみなnorm(e)系の言葉が用いられている.ISOのSがstandardのSではなく,ISOという言葉全体が,“同じ”とか“等しい”とかいう意味のギリシャ語の形容詞(接頭語としても多く使われる) から来ているのだと,ISOのホームページで特に断っているのは筆者には意味深長に響く.(ISOがInternational Standardization Organizationの略語であったら,国際組織として非英米語圏の協力が得られないのではないかとの懸念からか?)

 この章の記述はかなり乱暴なので,本来なら文献を引用すべきであるが,近ごろは関連の団体のホームページが完備しており,またインターネット上で動く検索ソフトにも便利で性能の良いものが多くあるので,団体名などをキーにしてそれらを利用して頂きたい.


■3. 空間情報の特質とその標準化の必要性

 「1. はじめに」でも触れたように,空間情報の利用形態は多種多様であるが,それらが相互に関連付けられ,お互いにデータを利用し合えるようになるのが望ましい.いわゆるinter-operability(相互運用可能性)である.そうするためには空間情報の骨格部分・基盤部分を中心にすえて,そこに各種のデータを連結して使うという形をとらなければならない.そうしないと,GISを作ろう・使おうというときに,目的ごとに別々に測量・地図作りを行っていわゆる“重複投資”を繰り返したり,異なる応用間で基礎になる地図が(時間的にも空間的にも)食い違ったりするようなことが起る.逆に,基盤部分を統一してそれに各種の応用データを結び付けるようにすれば,重複投資は避けられるし,更に,利用者からの情報のフィードバックを活用するシステムを確立しておけば,常に新鮮でより正しいデータ,いわば“実時間地図”が使えることになる.

 このようなことを実現するためには,少なくとも基盤情報に関しては“標準化”が必須であることは明らかであろう.

 このようなことを考える際忘れてならないのは,空間情報,地理情報の特質の第一は,それが大規模であるということである.そのことの故にも,標準をきちんと整備しておいて,それに従って情報を収集し整理することが大切である.



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