磁気共鳴画像(MRI)を使うことにより,健常なヒトの脳構造や機能を正確に測定できる.本稿では,「脳をみる」のに使われるMRIの原理や性能,その解析処理の概要を紹介し,更に雑音の多い膨大なMRI信号からの脳機能結合情報の抽出などの重要な課題が残されていることを指摘する.次いで,インサイト(洞察)等高次な認知機能に伴う「脳活動を見る」ことができることを紹介する.従来,ヒト知能現象の科学的探求は難しかったが,知能を構成する脳からの豊富な実験データに基づいて,ヒト知能の科学や技術の構築が可能になりつつあることを是非実感して頂き,若い研究者がこの魅力ある研究分野に参加・貢献されることを期待する.
キーワード:MRI,脳イメージング, 高次認知機能,ヒト固有の記憶と知能
■1. は じ め
ヒトの脳の構造と機能を非侵襲に計測する手法としてMRI(磁気共鳴画像:Magnetic Resonance Imaging)が注目を浴びている.「体を開けずに,その内部が見られる」意義は大きく,2003年ノーベル医学賞(注1)が,MRI関連研究に与えられた.
このように注目を浴びるMRI技術であるが,装置の物理特性の向上,計測原理や解析手法の革新と改良,適用対象領域の拡大が現在も続いており,発展スパイラルの途上にあるのは驚きである.MRIの一種であるfMRI(functional(機能的)MRI)は,生体構造測定法である解剖MRIと異なり,脳活動・機能を測定する.非侵襲性で正確に何度でも「脳を開けずに,脳活動を見られる」優れた特徴があり,ヒト知能の研究を根本的に変える可能性がある.
2.でMRIとfMRIの原理と特徴,更には利用時に考慮すべき事柄を紹介する.3.では,fMRIの標準的解析処理ソフトウェアであるSPMの概要を紹介し,更に脳機能的結合の解析を目指した多変量解析の研究について紹介する.
ヒト知能研究で感じる限界の一つは,「知能現象を実験して,見ることができない」ことである.行動レベルの心理実験だけでは十分のデータに欠けるので,知能を実現している脳におけるデータを豊富に得ることができるfMRIはヒト知能研究の画期的なツールである.その事例として,4.で,ヒト固有な知能に関係した瞬時学習やインサイト(洞察)の脳イメージング研究を紹介する.最後に5.で,このようなヒト知能研究において情報技術研究者に期待される貢献と将来展望についても述べたい.
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