電子情報通信学会誌 Vol.87 No.5 pp.396-401 2004年5月

河野隆二 正員:フェロー 横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門
E-mail kohno@ynu.ac.jp

Ryuji KOHNO, Fellow(Graduate School of Engineering, Yokohama National University, Yokohama-shi, 240-8501 Japan).



超広帯域(UWB)無線通信と今後の高度無線アクセス技術 河野隆二

abstract  Ultra Wideband(UWB)無線技術は,ワイドバンドCDMAによる第3世代移動通信システムIMT-2000やIEEE802.11a,b,gの無線LANなどの広帯域無線に比べて,はるかに広帯域を用いることにより,マイクロ波帯の無線PAN(Personal Area Network)では超高速(100Mbit/s以上)伝送を実現し,ユビキタスでブロードバンドな無線アドホックネットワークをサービスすることができる.UWB技術は超高速伝送ばかりでなく,超高分解能な測距測位が実現できるため,今後の高度無線アクセスのコア技術として期待される.
キーワード:UWB,超広帯域無線,インパルス無線,無線PAN,IEEE802.15.3a



■1. は じ め

 近年,モバイル情報通信システムにおける大容量化,高信頼化,高品質化に対する要求は専門家のみならず,一般に広く浸透し,そのインフラストラクチャを基にした多様なサービスがビジネス化している.既に,広帯域無線通信システムとして,5MHz程度の帯域幅のワイドバンドCDMAによるIMT-2000及び,その下りリンクのブロードバンドストリームにHDRやHSDPRが導入され,無線LANにおいても2.4GHz帯のスペクトル拡散(SS:Spread Spectrum)方式によるIEEE801.11bやBluetooth,5.2GHz帯で数十MHzの帯域幅を用いたOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式によるIEEE802.11a などのブロードバンド無線LANが研究開発され,商用化されている.一方,ユビキタスで,よりブロードバンドな無線通信への庶民的関心が高まっている中で,2002年2月14日に米国FCC(連邦通信委員会)が数GHzの帯域幅による超広帯域,すなわちUltra Wideband(以下,UWB)無線技術を用いた製品の販売と利用を許可することを報道した.これを契機に,Bluetoothなどの近距離ワイヤレスシステムの市場などで,はるかに高速(100Mbit/s以上)でユビキタスなブロードバンドシステムが実現できるUWB技術に急速に注目が集まるようになった(1)

 UWB方式は,数GHzの帯域幅にわたって電力スペクトル密度(PSD)の低い信号を用いて通信を行う方式の総称である.その代表的な方式は,搬送波による変調を用いず,1ns以下の数百ps程度の非常に短いインパルス状のパルス信号列を無線で送受信するインパルス無線(Impulse Radio)方式である.そのパルス自体が数GHzの帯域幅を有することから,拡散変調などを用いずに超広帯域な無線伝送を実現する方式である(1),(2).その起源はパルスレーダや無線伝搬路のインパルス応答測定などにあり,狭義のUWB方式とはImpulse Radio方式を指し,低電力スペクトル密度による他システムへの低干渉による周波数共用,高精度測距能力やマルチパス分解能に優れ,低消費電力化,1チップ化が可能とされている.

 現在,マイクロ波帯で7.5GHzの帯域幅により100Mbit/s以上のブロードバンドでユビキタスな超高速無線アクセス通信として無線PANの研究開発,標準化,法制化,実用化が進んでいる.本文ではUWB無線の基礎から最新動向を中心に解説する.


1/7

| TOP | Menu |

(C) Copyright 2004IEICE.All rights reserved.