図1のような単純な構造で入射波の100倍もの電界強度が現われる現象は全く予想外であり大変興味深い.更に驚いたのは,そのときの壁面凹凸が図3(a)白線のようにそれほど大きくなかったことであった.もしこれら局在増強された電界強度が空気中の絶縁破壊電界を超えれば,局在領域で放電が生じ,“火の玉”と見えるのではないだろうか.

 図3を求めたときの壁面電流分布を図4に示す.縦軸は電流値(絶対値)を示し横軸は壁面位置を表す.図4で電流最大値は電界強度最大値近傍の壁面位置に現われる.図3(a)では凹凸がない場合の約100倍,(b)では約30倍の壁面電流が流れることが分かる.“火の玉”の近くの金属物体が物理的な影響を受けることは,多くの目撃例で報告されている(1).ランダム導波路壁面の大きな電流値はこのような現象に対応すると考えられないだろうか?.

図4 局在したときの壁面電流


図4 局在したときの壁面電流



 図1のような導波路構造では,電磁波局在増強の仕組みは極めて分かりやすい.図3の局在電界分布に山が二つあるいは三つあることに注意するとこの分布は高次モードに似ている.単一モード条件のランダム導波路ではこうした高次モードが形成されても伝搬できない.したがって壁面凹凸で発生したこのようなモードは発生場所に局在するしかなく,ランダム導波路の一部が一種の共振器となってしまうのである.電子と違って電磁波の場合は局在すると増強(Enhancement)が起る.このとき電界最大値は回路の共振ファクターQ で決まり,Q が大きいほど電界最大値は大きくなる.図1のような構造でQ はかなり大きくなるようで,シミュレーションではパラメータを選べば電界最大値はかなり大きく(入射波の200倍以上)できる.しかし,局在場所,電界最大値を予測できる理論的知見は見つかっていない.

■4. Applied Physics Letters論文

 予想もしなかった興味深い結果が得られたので,国際会議発表(8)だけではと思い,題名が“火の玉はアンダーソン局在?”で始まる論文をインパクトファクターの高い“まとも”な論文誌Applied Physics Letters(APL)に投稿した.何しろ題名に“Ball Lightning (火の玉)”という単語が入っているので,石頭レフェリーの反発を心配したが,(つたない英語は別にして)これといった照会もなく掲載された(9).この“怪しい”論文については幾つかの反響があった.スウェーデンから論文別刷を送付してきた研究者の手紙に

 “Congratulation!あなたの論文は火の玉の基本的な謎を解いている.残念なことにヨーロッパでは数多くのナンセンスな火の玉理論が提案され,このことが火の玉研究に悪い評価を与えている”
とあった.やはり火の玉研究はヨーロッパでも“怪しい”ようだ.

 また,ある国際会議でファイバ中の光局在の発表をしたイスラエルの研究者にランダム導波路関係の文献を教えてほしいと言うと

 「最近,面白い論文があったなあ.筆者は確か日本人で雑誌はAPLだったと思う.調べてみるといいよ.」
「その論文の著者が私ですよ.」(カッコイイ)

 詳しい内容の日本語論文も本会論文誌に発表した(10).この論文を講義で取り上げたら,学生が喜んだという話を複数の大学の先生からお聞きした.“怪しい”研究は多くの学生にとっても面白いに違いない.

 ちなみに1957〜2004年のAPLに掲載された論文でタイトルに“Ball Lightning”を含む論文は3編しか見つからなかった.本会論文誌は調べていないが,こんな“怪しい”単語を題名に持つ論文は筆者らのもの以外ないのではないだろうか.

 


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