●解説     雨宮 好文



 2.3 外部磁界と生体影響

 図2は磁界による生体への影響の種類と磁界しきい値,及び周波数との関係などを示したもので,次のようにして描かれている.


図2 各種の生体影響に対する磁界しきい値(文献(2)より作成)

 まず直線E1は,モデル化球表面の電流密度が0.1μA/cm2を生じる場合の磁束密度と周波数との関係を式(2)に従って計算して示したものである.直線E2,E3,E4は,同様にして電流密度1,10,100μA/cm2を生じる場合を示す.次に,各種の生体影響に対する電流密度のしきい値の周波数依存性を示す図1において,このしきい値電流密度がモデル化球表面上に流れてその生体影響を生じたものと考え,式(2)により磁束密度Bを算出して縦軸に示す.これがFK のカーブである.

 図2で考えている電流密度は球表面上のそれであるが,球の中心に近い部分では同一電流密度を誘起するには更に高い磁界が必要であることに注意しておく.

 この図から次のことが知られる.

 磁界を大きくしていくとき一番初めに起きる(最も低い磁界しきい値を持つ)生体影響は磁気閃光(F , G )である.この磁気閃光は,ある程度大きい誘導電流が網膜に流れると目を閉じていても何か光が見えるといわれる現象である.人によって背後から稲光りを当てられたようとか,実験室の照明がちらついたようとか,感じ方が様々である.

 この磁気閃光は,F カーブによれば周波数20Hz程度のとき磁束密度しきい値が最低の約20G(人により幅がある)で,それより周波数が低くても高くてもしきい値が上がる.20Hzでは,網膜での電流密度約1μA/cuが,この現象を生じるしきい値であると見積もられた(G ).

 周波数50Hzの場合について見ると,磁束密度が約50Gで約10%の人が磁気閃光の発生を検知できることが知られる(F ).更に磁束密度が1kGで中枢神経系の興奮性の変化が起き(H ),約5kGで心臓の期外収縮が起き(J ),約10kGで心臓の細動が起きる(K )ことが知られる.

  ICNIRP 1998指針が磁束密度の限度値を定める根拠として注目した現象はHの中枢神経系の興奮性の変化である.これは誘導電流密度が約10μA/cuを超えるとき起きるもの(表1)と考え,安全係数を10として職業人の電流密度限度値が1μA/cuと定められた.磁気閃光の発生は限度値を定める根拠に使われていない.この理由は,磁気閃光が健康に有害な影響とは考えられていないことにある.



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