■3. アンテナの広帯域化・多周波化

3.2 2周波切換内蔵アンテナ

携帯端末機器に用いられる内蔵アンテナは端末の物理的大きさの制約から波長の1/10程度である.更にその大きさは端末の小型化に伴ってますます減少している.一方,国内のPDC方式の場合,加入者の増加をまかなうため,周波数帯域幅は増加の一途をたどってきた.一般にアンテナは小型化すると周波数帯域幅が狭くなる.したがって,内蔵アンテナの課題は広い周波数範囲で良好に動作すること,すなわち周波数帯域幅の広帯域化である.

従来,内蔵アンテナとして板状逆Fアンテナ(PIFA: Planar Inverted F Antenna)(5)がよく用いられている.PIFAは端面短絡の1/4波長マイクロストリップアンテナの変形と考えることができる.短絡面の幅を狭くすることによって等価的にインダクタンスを装荷し,エレメント面積の小型化を達成している.PIFAの帯域幅は無線機きょう体の大きさによって変化する(6)が,通常比帯域幅は5%以下である.国内PDC方式において内蔵アンテナに求められる比帯域幅は10%であるので,何らかの方法で広帯域化をする必要がある.

図5に電気的に共振周波数を切り換えることによって広帯域化を図った例を示す.図のスイッチ回路は実際にはダイオードやFETなどで構成され,電気的に切り換えられる.スイッチによりエレメント端部の負荷条件を変え,容量を装荷することによって共振周波数を低周波側にシフトさせる.図の構成によって800MHz帯において等価的に100MHz以上の帯域幅を得ている.本方式は現行ディジタル携帯電話の内蔵アンテナとして採用されている.


図5 2周波切換PIFAの構成



■4. 人体影響の軽減対策

4.1 送信ダイバーシチ

携帯電話の通話状態では人体による電磁的影響のためアンテナの特性が劣化する.この人体効果はこれまで人体頭部や手とアンテナの電磁的相互影響を中心にメカニズムの解明が進められてきた(7)〜(10).一方,端末の小型・薄型化に伴って人体の影響は増々深刻になりつつあり,最近では外部アンテナに指を添えるといったワーストケースにおける送信アンテナ利得の向上が課題となっている.

その対策の一つとして,送信時に人体により利得劣化したブランチ(外部アンテナ)からもう一つのブランチ(内蔵アンテナ)に強制的に切り換える方法が考えられる.従来,端末用ダイバーシチにおける内蔵アンテナは受信専用であったが,それを送信にも使おうというものである.しかし,人体による特性劣化を知るための何らかの検出手段が必要で困難を伴う.検出手段が不要な他の対策方法として,PDC方式で既に行われている受信側のブランチ判定規範に基づく送信ダイバーシチにより,平均的なアンテナ利得を向上させることが考えられる(図6)(11).端末側の送信ダイバーシチは,本来フェージングによる基地側受信信号の落ち込みを克服する技術であるが,PDC方式のように送信と受信の周波数が離れている場合には周波数相関が低いため,信号の瞬時値変動に対するダイバーシチ効果は期待できない.しかし,人体による送信アンテナの動作利得低減に対しては大きな改善効果が見込める.


図6 人体影響軽減のための送信ダイバーシチの原理



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