■4. フォトニック技術のポテンシャル


 4.1 光ファイバの究極の伝送容量

 WDMは伝送容量の拡大に向けてひた走っているが,光増幅器の限られた光周波数帯をどれだけ有効に利用しているかを知る指標が,1(Hz)に占める毎秒当りのビット数で表わされるスペクトル利用効率(bit/s・Hz)である.傾きは利用可能な光周波数帯を示すことになる.現在では,Cバンド,Lバンド更にSバンドを加えた約128(THz)の光周波数帯において,40(Gbit/s)のビットレートで1偏波当りの最大のスペクトル利用効率が0.4(bit/s・Hz),これに偏波多重を施し273波のWDMで総伝送容量10.9(Tbit/s)が達成されている(18)

 スペクトル利用効率の向上には,信号スペクトルの狭帯域化や,FEC(Forward error correction)などの誤り訂正符号などのトランスミッションエンジニアリングが必要となる.例えば,光信号の変調フォーマットをCS(Carrier-supressed)-RZ(Return-zero)にすることによって線形及び非線形のクロストークを低減し,かつ偏波分散の耐力を持たせることができる.またFECを用いると理論的には10dBの改善が見込まれ,現実のシステムでも3dBの改善効果があることが示されている(19).一方,利用可能な光周波数帯は光増幅器に律せられているが,まだ1,260〜1,675(nm)の光ファイバの低損失領域で未開拓のO,E,Uバンドなどの開拓により拡大の余地は残されている.これらを考慮すると光ファイバ1本当りの総伝送容量は更に増えるであろう.

 では,WDM伝送におけるスペクトル利用効率の理論限界はどの程度であろうか.最近これについて興味深い考察がなされているので紹介する(20),(21).シャノンの理論により通信容量CはSN比の増大とともに単調に増加するので,通信容量C(bit/s)をシンボルが占める帯域(Hz)で割った量として定義され,スペクトル利用効率も次式のように同様に単調に増加する.

    

通常のいわゆる2値強度変調−直接検波(IM-DD:Intensity Modulation-Direct Detection)で誤り訂正符号を用いない場合には,ナイキストの第一基準により符号間干渉が0になる条件から,スペクトル利用効率は最大で1.0(bit/s・Hz)となるがことがよく知られている.Mitraら(20)は光ファイバの非線形光学効果である相互位相変調の影響を考慮した場合について,スペクトル利用効率を評価しており,スペクトル利用効率NLとSN比の関係は次式で与えられる.

   

ここでS0は非線形の影響を表すパラメータであり,線形の場合には零となるので式(1)に還元される.その結果を図3に示す.スペクトル利用効率は入射パワーが増えるにつれて増加するが,それに伴い相互位相変調によるチャネル間のクロストークも増えるためやがて減少する.通常のシステムパラメータのもとでは,1偏波当りの最大で約3(bit/s・Hz)と予測されている.したがって光周波数帯12(THz)では,ファイバ当りの総伝送容量は一偏波当り36(Tbit/s)となり,更に偏波多重により72(Tbit/s)という膨大な数字が理論上は出てくる.もちろん,これを達成するためには,多値変調や誤り訂正符号等が今後の重要な研究課題になる.

 

図3 スペクトル利用効率と入射パワーの関係
信号帯域10(GHz),群遅延分散20(ps/nm・km),チャネル間隔1(nm),1R中継間隔100(km)の場合.



4/6


| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.