■3. フォトニックIPネットワークのチャレンジ


 3.1 QoS実現に向けた二つのアプローチ

 IPオーバフォトニックネットワークに求められるサービス機能の中でもQoSへの関心が高まっている(12).QoSとは,データの平均レート,ピークレート,遅延時間,遅延時間の最大値と最小値の差で定義されるジッタ,パケット損などの通信品質を指す.QoSのグレードによってサービスはベストエフォートサービス,Better-than-theベストエフォートサービス,ギャランティードサービスにクラス分けされる.データセンターやIX,B2B商取引などでは,高品質で信頼性・安定性に優れたサービスが求められる.したがってQoSはネットワーク事業者がほかとの差別化を図る武器ともなり得る.

 従来QoSはIPレイヤよりも上位のレイヤで解決すべき課題であるという認識で取り扱われてきており,実際にバックボーンネットワークで利用されるコアルータなどではQoS機能を備えたルータも既に開発されている.ここではQoSを実現するための次の二つのアプローチを取り上げ(13),フォトニック技術がどのようにサポートできるかという観点から論じてみたい.
 @ 過剰設計のアプローチ
 A フロー(注1)ごとに異なるQoSを付与するアプローチ
*フローとは送信ホストから受信ホストへの一つのコネクション上で送られる時間的にまとまったパケットの集合でQoS的に同じ取扱いを必要とするものとして定義される(13)

 3.2 Abundant bandwidth

 @の過剰設計は,入力トラヒック量に対して十分に大きい容量を持つネットワークを使用すれば良好なQoSが得られるという極めてストレートなアプローチである.本来QoSを保証するためには,バーストレートに対応した帯域が必要である.例えば音声とバルクデータのバーストレート,すなわちピーク時のトラヒック量を平均値で割った値を比較すると音声のバーストレートは通常2程度であるのに対し,バルクデータでは10まで見込まなければならない.本来QoSと効率的な帯域使用とは二律背反である.

 一方,ふくそうの解決策としてもAbundant bandwidthは有効であることが示されている.インターネットにしばしばふくそうが生じるのは,トラヒックのデータ長分布のHeavy tailによる自己相似性に起因することも指摘されている(5).したがって,従来の電話ネットワークのように,ポアソンモデルがネットワークの設計に適用できないことも指摘されている.その解決策はバッファサイズを増やすことでも,トラヒックシェイピングでもなく,帯域を十分に確保することであるということが証明されている(14)

 過剰設計の考え方はG. GilderのTelecosmの思想に通じる(15).G. Gilderは半導体・LSI技術をベースとするコンピュータ隆盛のMicrocosmの時代が終えんしネットワーク・通信をベースとするTelecosmへの世代が到来したと述べ,『ネットワークにはあり余るほどの帯域を持たせよ,インテリジェンスは端末に付与せよ』,『ネットワークのボトルネックはスイッチにある,だからスイッチをネットワークから排除すべきだ』とややせん動的で極論はあるが,核心をついた主張を展開している.一方,D.S. IsenbergはStupid Networkが将来のネットワークのあるべき姿であると論じている(16).Stupid Networkでは,コアネットワークには十分な帯域と簡単なスイッチング機能だけを持たせ,エッジに制御機能を分散配置したネットワークである.このような思想はフォトニック技術をベースとする21世紀ネットワークの姿を予言しているように思われる.

 3.3 フォトニック技術によるチャレンジ

 前述のように帯域がAbundantでないという状況では,3.1のAのアプローチの方が現実的で経済的なアプローチである.QoSへのアプローチとして,Intserve(Integrated Service)とDiffserve(DS:Differentiated Service)という二つの方法が考えられている(13),(17).Intserveはフロー単位でリソースを割り当てる方法であるが,ネットワーク規模が大きくなると問題が生じスケーラビリティが保てない.一方,Diffserveはルータがパケットの特定のフィールドだけを処理し,処理はルータごとに完結するので規模の拡張性に富む.ただしパケット単位の処理が必要となるので高速化が必須となる.そこでフォトニック技術の導入による高速化の可能性が考えられる.

 PHB(Per Hop Behavior)というルータが行うQoS制御のメカニズムを図2に示す.エッジルータでは受付制御を設けQoSの申込みを受付可能か判断し,更にトラヒック調整機構を設けて流入するトラヒックに必要な処理を施す.受付制御やトラヒック制御などは上位レイヤのタスクであるが,トラヒック調整におけるパケット分類は適合パケットと非適合パケットに分類し,次に通過,破棄,遅延,マーク付けを行う.パケット分類はIPパケットのヘッダの特定のフィールドに書き込まれたDSコードポイントの参照によって行われるので,4.2に述べるようなフォトニックラベル処理が適用できる.その他の処理もいずれも光領域で実行できるので,高速化が可能であると思われる.

 

図2 DiffserveにおけるQoS制御メカニズム

 

 (注1) フローとは送信ホストから受信ホストへの一つのコネクション上で送られる時間的にまとまったパケットの集合でQoS的に同じ取扱いを必要とするものとして定義される.



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