3.2 多変量解析手法
SPMは,事前の解析モデルを必要とするボクセル単位の1変量解析である.本来fMRIデータは多ボクセルにわたる多変量であり,脳内特定部位の機能的結合の検出・検定には多変量解析が不可欠である.そこで,これからの研究領域であるfMRI多変量解析手法の現状を概観する.
事前にモデルを設定できない場合には,ICA(Inde-pendent Component Analysis), PCA(Principal
Component Analysis),やSOM(Self Organization Map)等のデータ集約やクラスタ解析を用い,特有な時間パターン,空間パターンを抽出することが試みられている.ノイズの除去に有効性が認められるものの,有意で有効な活動パターンを抽出して利用した研究は多くない.これは,抽出パターンの解釈の難しさに起因している.
事前に小数の脳部位を指定して,その間の関係モデルを決めることができる場合,多変量統計手法SEM(Structual Equation
Modeling)を利用して,fMRIデータに基づき,モデルで与えた関係係数の値を決定することができる.モデルに非観測量や潜在変数を導入でき,心理量と脳現象を結び付けることも可能である.fMRI時系列データを用いたSEMの計算が実際には大変で,データとモデルの選定が難しいのが現実問題である.PLS(Partial
Least Square)(8)は,モデル下で潜在変数を効率的に計算できる.最近のSPMでは,PLSを含めた多変量解析がtoolbox(9)として提供されている.しかし,解析ツールの能力と使い方と両面で問題が多く,fMRI多変量解析が普及するには今しばらく時間がかかりそうである.
3.3 MvIA
我々は,fMRIデータの情報量の計算に基づきボクセル間の関係を解析するMvIA(Multi-variates Information
Analysis)(10),(11)システムを開発した.MvIAは,解析のためのモデルを事前に必要とせず,データに基づいてボトムアップに情報構造の解析ができる特徴を持つ.
本システムでは,ボクセルごとに測定された活動時系列データを変量として扱い,脳内の注目ボクセル2点と,その他の各(脳全体にわたる)ボクセルとの3変量間の活動の関連性を解析する.その際,関連性の解析を行うにあたって用いているのが,3変量間での多変量情報量である.情報量はその3変量の時系列データから作成した頻度表から算出することができ,それらのエントロピー情報量を基に,相互情報量,条件付相互情報量,交互作用,媒介作用,束縛などの値が導き出せる.それらの情報量は,変量間の関連性を表す測度であるため,本システムではそれらの情報量を基にして,3変量間での機能的結合関係の解析が可能となる.
これらの情報量を表示することにより,各種の脳マッピングが可能になる.X
を特定のボクセルに当てはめ,Y
を他の脳全体のボクセルに当てはめると,ボクセルX
との共有情報量の脳マッピングを表示できる.更に特定のボクセルZ
を指定して,条件付相互情報量I
(X:Y/Z)を計算することでボクセルZ
の影響を取り除いたX
との情報の共有の脳マッピングを表示できる.束縛I
(X
:Y
:Z
)は,X,Y,Z
の間に情報構造を持つことを一般に示す量と考えられる.
情報量を扱うMvIAの特徴として,情報量を用いた各種の検定が可能になることである.3ボクセル間の情報量の流れの検定アルゴリスム,情報共有の検定アルゴリズム,条件付情報共有の検定アルゴリズムが存在し,検定結果を脳マップとして表示することができる(10),(11).図4に,4.第1実験で古い記憶で一番活動した右側海馬ボクセルと,最近の記憶で最も活動した左海馬傍回ボクセルとの束縛情報量(P
<0.02)を持つ領域を三次元表示した.
MvIAは,膨大な計算処理が必要な試作システムである.脳全体にわたる脳マップの作成の用途には,数日かかる.特定の変量に注目した多変量解析には,どの変量に注目すべきかの探索の事前処理が必用になろう.その意味でも,数十ボクセルのMRIデータに限ったMvIA(11)は,有効である.SEM解析に必用なモデルを推定することもできる.
3.4 fMRIデータマイニング
EM(Expectation Maximization)法,Bayes法等各種のデータ手法の適用が進み,fMRI処理や解析が高度化している.しかし,fMRIの膨大なデータから今読み出されているのは,単一変数解析の表面的な現象である.そのような研究の流れの先に,脳の情報処理構造を反映した機能的結合関係を解明する多変量解析の大きな研究テーマが横たわっている.膨大な多変量計算処理を必要とする宝探しのデータマイニングかもしれないが,脳の機能を知り,ヒトの知能の探求には避けることができない.
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