2.2 UWB無線技術の特徴

 Impulse RadioによるUWB方式ではDS-SS方式のように拡散符号のチップの時間幅を小さくすることによって帯域を広げるのではなく,Time Hopping(TH)された1ns以下の時間幅を持ったパルス(モノサイクル)のベースバンド信号を複数送信することによって非常に広い帯域を占有するようになっている.したがって,搬送波を用いて変調するときよりも更に広い帯域で,スペクトル電力密度を低減して伝送する.その結果,高い秘匿性や干渉への耐性,到達時間の分解能力を有する.
 UWBでは,伝送する周波数帯に情報信号を乗せる搬送波を使わず,代りにインパルス状のベースバンド信号で伝送する点が特徴である.

 UWBでは非常に広い帯域を用いることに依存して,次のような特長がある.

(1) マルチパスの遅延時間を1ns以下に分解できる.この結果,マルチパスフェージングの影響を十分抑えることができる.
(2) この高いパス分解能力によりUWBによる室内の高品質近距離無線通信が可能となる.
(3) また,フェージングの影響が低く抑えられ,送信電力が少なくて済む.
(4) 更に,送信電力の低いUWBでは電力スペクトル密度が非常に低くなるので他の狭帯域伝送に影響をほとんど及ぼさない.

 このように広帯域を用いると,高速伝送が可能になる理由は,シャノンが導いた通信路容量C によって説明できる.有線,無線のいずれの場合も,物理的に提供された通信路ごとに固有に誤りなく伝送できる最大の伝送速度として,通信路容量C が定義される.特に,伝送できる周波数帯域B が制限され,雑音により誤りが生じる通信路では,通信路容量C は,下記のように表される.


 CB log 2 ( 1+P/N )
 C :通信容量(bits/s)
 B :伝送帯域幅(Hz)
 P :信号平均電力(Watt)
 N :雑音平均電力(Watt)

つまり,最大伝送速度C は通信路の帯域幅B に比例して大きくでき,信号対雑音電力比(SN比:P/N)が大きくすれば,C は大きくできる.したがって,原理的にはUWBのようにGHzオーダまでB を広帯域にすることにより,Gbit/sオーダまで超高速伝送が可能となる.

 一方,UWBは従来,運用に研究開発されてきたが,商用化するためには検討すべき課題がいまだ多い.UWBの問題点を下記に示す.

(1) 超広帯域で時間幅の非常に短いパルスを発生させる回路,素子,及び超広帯域アンテナ・高周波回路の製造
(2) 受信時にパルス位置ずれの検出精度
(3) マルチパス環境下でのパルス符号間干渉
(4) マルチユーザ環境下でのパルス衝突によるユーザ間干渉(システム内干渉)
(5) 周波数共用(共存システム)によるシステム間干渉
(6) 超広帯域スペクトルを利用できる周波数帯が電波法上困難であった.

 しかし,商用化に向けて,いまだ解決すべき問題がある.すなわち,UWB信号の送受信システムのハードウェア実現上の問題として,極短パルス信号の生成・検波回路,超広帯域特性に優れたアンテナ,増幅器,フィルタなどの設計及び装置化,デバイス化などの問題,マルチパス環境やマルチユーザ環境における高信頼化のために変復調,符号化復号,干渉抑圧・除去などの通信方式の問題などを解決する必要がある.また,無線PANなどの情報家電への量産化に必要な国内外の標準化の推進とともに,電波法によるUWBシステムの商用化のための技術的条件策定や技術基準適合を確認するための測定法などの整備が不可欠である.


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