Q
11:
電磁波のために,@VDTで妊婦の流産や胎児の奇形が増加しないか,A電気器具(主として電気毛布)は健康に影響がないかという心配については.


A:
@Aの答えはどれも「心配ない」.このことはICNIRP 1998指針の解説文中に明記されている.防護指針の文書は,限度値(指針値)のリストだけでなく,このような情報も解説文の形で与えてくれている.



Q
12:
非熱的レベルの振幅変調電磁波をネコの脳細胞に照射すると,カルシウムイオンの流出という現象があると聞く.このことについてのICNIRP 1998指針の見解は


A:
あらまし次のように書かれている.

 「中心的問題はインビトロ(生体外)条件での振幅変調電磁界による生物学的影響の報告に関する.最初の報告は6〜20HzのELF周波数で変調されたVHF電磁界により,ニワトリ脳細胞の表面から小さいが統計的に有意なカルシウムイオン放出があったというもの(Bawinら1975,Blackmanら1979).その後,これを再現できなかった(Albertら1987).ポジティブな結果とネガティブな結果があり,ネコ脳細胞では観察されたが,ラット脳細胞等では観察されなかった.

 また振幅変調電磁界は,脳の電気的活性の変化,Tリンパ球の細胞攻撃因子活性の阻害,細胞増殖に必須なある酵素の細胞内活性の一時的増加等を起す.ところが,他の様々な細胞システムを用いたリンパ球キャッピング,細胞膜の電気的,酵素的性質等について行われた研究では,何も影響がなかったという報告もある.

 全体として,振幅変調電磁波の非熱的影響に関する文献は余りに錯そうしており,また報告された影響の妥当性の確立も不十分であり,このような情報を人のばく露限度設定の基礎として用いることは不可能である」.



Q
13:
電波が遠方から到来し人体が均一ばく露される場合の熱作用による全身平均SARの限度値は,一般人に対して0.08 W/kgであった(Q8参照).携帯電話で電波を放射する場合には,頭部が受けるばく露は均一ばく露でないので,注目するべきは局所SARであろう.その限度値は幾らか.


A:
携帯電話使用時の頭部内部での吸収エネルギーの分布は非常に不均一なこと,目などの10g程度の質量大の頭部器官での局所的温度上昇の可能性に注目するべきことなどから,ICNIRPは「10gの質量で平均した局所SARの値」を用いた次のような勧告を行った(1996年)(5)

 「頭部内の局所SARは,その組織の任意の質量10gにわたって平均した値を,職業人では10W/kg(頭部内の組織の任意の質量10g中での吸収0.1W)以下,一般人では2W/kg(頭部内の組織の任意の質量10g中での吸収0.02W)以下に制限することを勧告する」.

 更に次のことが述べられている.携帯電話使用時の電波の吸収は主に頭部表面の組織で起きる.特に皮膚とその下の部分で吸収され,頭骨の中にはほとんど浸透しない.職業人では,全身SARが0.4W/kg以下で局所SARが10 W/kg(10g平均)以下,一般人では全身SARが0.08W/kg以下で局所SARが2W/kg(10g平均)以下の電波のばく露により,がんを含む健康影響が起き得るという実際の証拠はない.また,携帯電話の周波数と電力レベルでは,電撃とやけどに関する心配もない.

 ICNIRP1998指針は上記の局所SARのデータを含む.周波数100kHz〜10GHzにおけるSAR限度値を改めて示すと表5のようである.

表 5 100kHz〜10GHzのSAR 限度値
全身SAR(W/kg)
局所SAR(W/kg)
頭部と体幹
四肢
   職業人        0.4
10
20
   一般人        0.08
2
4

 

 携帯電話の電波が埋込型心臓ペースメーカに誤動作を与えないように,我が国の不要電波問題対策協議会の指針(6)は,携帯電話(1W以下)は埋込型ペースメーカから22cm以上,自動車電話とショルダホーン(2〜5W以下)のアンテナは30cm以上離すことを具体的に定めている(1997年).



Q
14:
人が均一ばく露を受ける場合の全身平均SARの限度値は一般人では0.08W/kgであって,上昇温度の概算値は0.02℃未満と考えられた(Q8参照).携帯電話の場合に,頭部内組織の10g平均の局所SARの限度値が2W/kgのときに,上昇温度の概算値は幾らか.


A:
人体頭部内の局所SARの直接測定は不可能なため,数値モデルを使ったシミュレーションによる計算結果が次のように述べられている(7)

 「周波数900MHzと1.5GHzにおいて,体温調節機能を有する脳組織での最大上昇温度は,局所SAR 2W/kg (10g)に対して0.11℃となり,人の基礎代謝で生じる深部体温変動1℃に比べて1/9であり,熱的ストレスを受けることはない」.同時に次のことも述べられている.SARの最大値は携帯電話機側の頭部表面(耳)で生じており,そこから遠ざかるに従ってSARは減衰し,頭部内部にはホットスポットは形成されない.局所SARを決定する最大の要因はアンテナの種類である.現用の携帯電話機では2W/kg (10g平均)を超えることはない.SARと上昇温度のピークとなる場所は異なり,前者が耳付近の皮膚で生じ,後者は皮下組織に生じている.

 

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