Q
8:
熱作用による全身平均SARの限度値を一般人の場合に0.08W/kgとした根拠は?


A:
生体の温度上昇が1度を超えると健康に有害である(健康影響がある)ことが各種の実験から分かっているので,職業人では約0.1度を超えないように,また一般人では約0.02度を超えないように電波の強さを押さえなければならないとされる.実際には体温は衣類,気温,湿度,身体活動状態によっても変動があるので,学問的には体温の替りに「体重1kg当り毎秒幾らの電波エネルギーを吸収するか」に注目する.この値は全身平均SAR(Specific Absorption Rate: 比吸収率)と呼ばれる.温度上昇が職業人0.1度,また一般人では約0.02度を超えないようにするには,全身平均SARの値がそれぞれ0.4W/kg,0.08W/kgを超えないようにすればよいことが分かっている.



Q
9:
携帯電話の電波により病院内での電子機器が誤動作するという.機器が誤動作するくらいなら,なおさら人間の健康に影響するような気がするが.


A:
電子機器が誤動作するのと同じ強さの電波に当たっても,人間には何も影響はない.電子機器の方が電磁界に敏感なのである.

 このことは,次のように数値的に明らか.電波防護指針によると100kHz以上の電界強度の指針値は表4のようである(4).条件G(一般人)に対する最低レベルは,非接地状態の人27.5V/m(周波数30〜300MHzにおいて),また接地状態の人については9V/m(下記)である.

 一方,電子機器が誤動作を起す電界強度の例として1mV/m程度を考えると,その電界強度の9,000倍以上でないと指針値を超えない,つまり健康影響を生じない.

 表4の指針値は,人が大地上に置かれた,例えば厚さ10cm以上の絶縁板の上に立ち(非接地状態),近傍の非接地金属物体による電撃の恐れがない場合の指針値である.更に,非接地金属物体による電撃の防止措置がとられていない場合,人体が大地に直接接地している場合(裸足),電磁界が複数の周波数を持つ場合等について,表4の運用の仕方,補正の方法などが注として付記(ここでは省略)されている.

表4 周波数100kHz以上の電界強度及び磁界強度の指針値(文献(4)より抜き書き)
条件P(職業人)
条件G(一般人)
周波数 f (MHz)
電界強度(V/m)
磁界強度(A/m)
電界強度(V/m)
磁界強度(A/m)
0.1〜3
614
4.89/f
275
2.18/f
3〜30
1.81×103/f
4.89/f
823/f
2.18/f
30〜300
61.4
0.163
27.5
0.0728
300〜1,500
3.54f
0.00939f
1.58f
0.00419f
1,500〜300,000
137
0.365
61.4
0.163


 それによると,電界強度指針値の最高レベルは,表4で見るように非接地状態の場合は条件P(職業人)で61.4V/m,G(一般人)で27.5V/mであるが,接地状態の場合は,条件Pで20V/m,条件Gで9V/mとされている.これは,接地した足首を流れる電流による温度上昇までも抑えるためである.



Q
10:
職場のパソコンオペレータにはOAエプロンを使っている人もある.製品の説明書を見ると「OA機器から出る有害な電磁波をカットする」と書いてあるが,果たして有効であろうか.


A:
答えは「OAエプロンを着用しなくても健康影響はない」.問題は@着用者は外部電磁界のどのあたりの周波数をカットできるのか,AOA機器から果たして有害な電磁波が出ているか,である.

 OAエプロンはゴムとかプラスチックに金属繊維やカーボンを混ぜて作られたもので,高周波(電波を含む)の電磁界はある程度カットする.しかし低周波(商用周波を含む)の磁界はカットできない(カットするには厚い鉄材が必要).

 各種情報処理機器(OA機器)の動作時には高周波の電磁界が外に漏れて出る.また機器の電源部やブラウン管を含むVDTなどからは,低周波の磁界も漏れて出る.しかし漏れ電磁界の大きさは,実測結果によると表4の指針値以下である(そうでないと,そのOA機器は欠陥商品だと消費者にレッテルを張られることになる).要するに,OA機器からの漏れ電磁界は,健康影響を生じる強さのものではない.

 OA機器(一般にVDT)から漏れる高周波電磁界のレベルは,元々非常に低く,健康に影響を与えないことが次のような考え方からも分かる.

 OA機器の漏れ電磁界は,他の同種の機器に影響を与えないように自主規制(VCCI)が設けられている.それによると,最も緩い場合でも,電界強度許容値(限度値)は3mの距離で57dB,すなわち0.71mV/mである.ワーストケースとして距離の三乗反比例を仮定すると,人体があると想定される距離30cmまで近づくときに,人体が受ける漏れ電磁界は0.7V/mに大きくなる.電波防護指針の電界強度の最低レベルは,ワーストケースでも9V/mである(Q9参照)ので,漏れ電磁界約0.71V/mはその10分の1以下の値に減少していることになる.




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