【 画像で見せる ──CG技術のヒューマンコミュニケーションへの応用── 】



 3.4 日韓化身話コミュニケーション

 化身同士がサイバースペースで遭遇したときに,感情や意志を言語の壁を超えてどの程度伝えることができるかは,化身話による非言語コミュニケーションの有効性そのものの研究課題である.その課題に取り組むためにも,実際に異言語間で化身話コミュニケーションシステムを構築する必要があり,実験システムの構築と簡単な通信のシミュレーション実験を行ってきている(4)〜(7).化身話は従来用いられている手話を利用でき,例えば韓国での手話動作「私は学校に行く」を三次元モデルのCGアニメーションで表現したものを図3に示す.このような手話アニメーションを作成していくためには化身の動作を記述するパラメータを得る必要があり,運動を逆にたどるinverse kinematicsを利用したエディタを開発しつつある(7).更に三次元モデルを化身話チャットシステムとして用いる場合は,ライブCG技術のような,実時間でのモデル生成と表示技法の開発が必要で,この点最近の高度なゲームのCG技法の利用が考えられる.


図3 韓国語“NaNeum HakKyoEa KamNiDa (I go to school)”の化身話CGアニメーション



 感情に付随する表情は人類共通なものであり,単純な感情の伝達は図2でのシステムでデザインしたような表情や,それに色塗りを行った表情で充分相手側に伝えることができる.一方,身体の動作や手・指の形状で意味を持たされるものは,特定の民族の習慣や文化,言語にかかわっている場合が多く,近い文化や言語間では,身体を使っての表現が似ていると推測できる.もし,化身話の通訳を言語を介して行うことを考えれば,言語構造が近いものほど有利と考えられる.ただし,ここら辺のことはまだ十分な検討がなされていない.

 前述のような理由もあり,文化や言語が似通っている日本と韓国での化身話コミュニケーション実験を検討してきている(4),(5),(7).このように国や民族が異なる場合,それぞれの国や民族が一目で分かる方法も要求されてきており,図4の化身話チャットのシミュレーション例では日本人は侍のような身なりで,韓国は民族服で表現している.これは国(民)のアイコンを作ることでもあり,今後いろいろな方法を検討する必要がある.


図4 日韓「化身話」チャットシステム
  画面の左が日本側,その右が韓国側で,衣装によりそれぞれの国(民族)を表現することを試みている.



 3.5 通信衛星を介したインターネット化身話通信

 通信衛星利用による大学間での共同利用研究が1991年から始まっている.通信衛星で知的作業空間を構築して,仮想実験室等での作業を考えると,簡単な動作や意志の伝達であれば化身話による処理が考えられ,そのような研究が端緒についたところである(6),(8).

 通信衛星の利点は,衛星が利用できるという前提の下で,例えばへき地,離島,船舶といった地上回線がカバーできないところでのインターネット環境を構築できる点がある.一方,衛星では時間遅れの問題があり,テレビ会議等で送受信間での音声と画像のずれが問題になる.この点化身話通信では非言語通信であり,モニタ画面でのキャラクタの動作を見ているので,実画像と音声による直接通信より時間遅れに対処できることが考えられ,今後の研究課題である.





4.重症心身障害者のコミュニケーションへの応用

 重症心身障害者とは厚生省の定義によれば,おおよそIQが35以下で,身体障害の程度が1,2級の者をさす.身体障害2級程度では有用な運動が極度に制限される程度であり,1級とは何ら有用な運動ができない程度の障害である(9).IQが正常な場合は文字の理解ができ,文字板等によって会話をすることが普通に行われる.しかし,身体的障害が重度であれば一つのセンテンスを終えるまでに長時間を有する.一例として,44歳の男性(脳炎後遺症)の場合「こんどパソコンを買うつもりである」と表現するのに20〜30分の時間を要した.しかも,表現を終えたときには緊張のために相当の発汗を伴っていた.

 重症心身障害者(児)のコミュニケーションを支援するために1993年ごろより,タッチトーキング(Touch-Talking)なる会話装置の開発に取りかかった.本システムの命名の由来はタッチパネルの絵に触れると音声が合成されるというシンボル会話の発想に基づく(10)



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