1.総   論 【 1-2グローバルコンピューティング時代のシミュレーション  】

関   俊 司

電子情報通信学会会誌

Vol.83 No.11 pp.813-817
2000年11月
関 俊司:正員 NTTエレクトロニクス株式会社経営企画本部

E-mail seki@hqs.nel.co.jp
Simulation Technology in Global Computing Era. By Shunji SEKI, Member(Corporate Strategy, NTT Electronics Corporation, Tokyo, 150-0043 Japan).

■ABSTRACT■
 グローバルコンピューティング時代の到来が近づくにつれて,シミュレーションの基盤である高性能計算環境にも大きな変革が訪れつつある.本稿では,“汎用”スーパコンピュータとして期待が寄せられている計算機クラスタ,広域ネットワーク上に仮想的な高性能計算環境を構築するメタコンピュータやコンピュータグリッドなど,来るべき変革の中核を担う技術を解説し,将来の高性能計算環境について展望する.

キーワード:メタコンピュータ,計算機クラスタ,コンピュータグリッド,並列計算機,高性能計算環境




1. は じ め に

 計算機シミュレーションと聞くと,ベクトル計算機(VC:Vector Computer)やスカラ超並列計算機(MPP:Massively Parallel Processor)などのスーパコンピュータを思い浮かべる読者も多いことだろう.確かに,1970年代に登場したCrayに象徴されるスーパコンピュータがシミュレーションの基盤である高性能計算環境に大きな変革をもたらし,科学,産業分野において,計算機実験や計算機シミュレーションという手法に市民権を与えたことは間違いない.このCrayの登場から20余年,汎用マイクロプロセッサ(MPU)の発達や,インターネットの爆発的な進展に伴うネットワーク技術の進歩は,こうしたシミュレーションの基盤である高性能計算環境に改めて大きな変革をもたらしつつある.

 本稿では,まず計算機性能の観点から,高性能計算環境の変遷を概観する.次に,近年のMPUやネットワーク技術の進展が可能ならしめた計算機クラスタやメタコンピュータなど,高性能計算環境における新しい潮流について述べ,21世紀に向けて着実に進行しつつある変革の一端を紹介したい.



2. 高性能計算機の分類と変遷


 計算機の分類法というと,計算機全般を対象としたものとして有名なFlynnの分類法や,共有メモリシステムの構成方法に着目した並列計算機の分類法などが知られている.このような分類法については,並列計算機に関する書物(1)〜(3)に説明を譲り,本稿では,並列の程度(プロセッサ数)と分散の程度(プロセッサ間の物理的な距離)の二つの観点から分類を試みる.図1は,高性能計算環境を,この二軸で分類した結果をまとめたものである.1970年代から1980年代にかけて,スーパコンピュータの代名詞的存在であったVCも,近年では複数のベクトルプロセッサを並列化した構成が標準的になっている.一方,1980年代から1990年代にかけては,汎用のMPUを多数並列化したスカラ並列コンピュータが進展したが,これらは,共有メモリシステムの構成方式に応じて,先述したMPPのほかに,SMP(Symmetrical Multi-Processor),CC-NUMA(Cache- Coherent Non-Uniform Memory Access)などに分化している.


図 1 高性能計算機の分類.
  CC-NUMA:Cache-CoherentNon-UniformMemory Access,SMP:Symmetrical Multi-Processor.



 これらに加えて, 1990年代後半から新たに注目を集めるようになった高性能計算環境がある.計算機クラスタ(4)とメタコンピュータ(5)である.計算機クラスタとは,同機種の計算機を一箇所に集め,超高速のネットワークで接続することにより,仮想的に一つの計算機として機能させるものである.一方,メタコンピュータは,地理的に分散した異機種の計算機を高速のネットワークで接続することにより,ネットワーク自体を高性能計算の資源として機能させようとするものである.



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