1.総   論 【 1-2グローバルコンピューティング時代のシミュレーション  】

関   俊 司

計算機クラスタの高性能化を実現する上で重要な技術要素は,

@ 高性能プロセッサ  
A 高速ネットワーク技術  
B ソフトウェア(オペレーティングシステム,通信ソフトウェア,クラスタ構成用ミドルウェアなど)

の3種類に大別できる.上記 @ と A の技術要素に関しては,近年のMPU及び高速ネットワーク製品の高性能化と低コスト化によるところが大きい.米半導体工業会のロードマップによれば,MPUのクロック数は,2000年代半ばには2GHz超,2010年代半ばには3.5GHz超に達する見込みである.また,高速ネットワーク技術に関しては,既に10ギガビットイーサネットの標準化に向けた検討が進められており,上記 @ 及び A の技術要素に関しては,当面の間,引き続き進展が期待できる.したがって,計算機クラスタの高性能化には,このようなハードウェアの性能をフルに出し切らせるためのソフトウェアの開発が重要な課題である.ここでは,特に,通信ソフトウェア(17)の開発の重要性について簡単に触れておきたい.

 現在,計算機クラスタ用のネットワーク構成部品としては,Myrinet,ファイバチャネル,ギガビットイーサネットなどのGbit/s級のネットワーク製品が汎用品として入手可能である.また,近い将来には,10Gbit/s級のネットワーク製品の低コスト化も進むものと期待でき,MPUを結ぶネットワークの物理的なバンド幅としては,超並列計算機に十分匹敵する環境が整いつつある.しかしながら,通常のTCP/IPプロトコルによってデータを転送する際の実効的なスループットは,例えばギガビットイーサネットではおよそ500Mbit/s以下であり,ネットワークの物理的なバンド幅をフルに使い切ることは難しい.これは,図4に示すように,カーネルにおけるTCP/IPプロトコル処理のオーバヘッドに起因すると考えられており,実効的なスループットの向上には,ユーザレベル通信やゼロコピー通信などの手法を導入した通信ソフトウェアを開発し,オーバヘッドを低減する必要があることが知られている(17).Duke大学のTrapezeプロジェクト(18)の報告では,通信プロトコル処理の最適化により,オーバヘッド処理を従来の1/8以下にまで低減し,物理的なバンド幅が1.28Gbit/sのネットワークにおいて実効スループット1.147Gbit/sが実現されている.高性能の計算機クラスタの実現には,物理的に高速のネットワーク製品の開発と合わせて,このような低オーバヘッドの通信ソフトウェアの開発が今後とも非常に重要である.


図 4 ゼロコピー通信と通常の通信の比較

ゼロコピー通信では,ユーザプロセスからNIC(Network Interface Card)へデータがDMA(Direct Memory Access)転送されるため,通常の通信で必要なカーネル空間へのデータのコピーが不要となり,オーバヘッドを低減できる.

 




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