■4. アハラノフ・ボーム効果の実験
理論上の議論は数多く繰り返されたにもかかわらず,AB効果論争の決め手にはならず,論文の数も200以上にも達した.これに決着をつけるには,完璧な実験を行うしかないと考えた我々は,考え抜いたあげくに微細加工技術の利用を思いついた.これを使えば,疑いのない実験ができる.
1960年代に行われた実験は,いずれもまっすぐなコイルや棒磁石を使って行われている.これでは無限に長くしなければ,外部の磁界をなくすことはできない.しかし,無限に長いコイルを作ることは,実験的には不可能である.そもそも磁気漏れのないサンプルなどあり得るのだろうか?――磁石を曲げてN極とS極をくっつけてしまえば,有限の大きさで磁気漏れのない理想的なサンプルを作ることができる.ただ,電子線の干渉実験用のサンプルは非常に小さくなければならないので,完璧な実験は思考実験の一つと見なされていた.
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(a) サンプルの構成図
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(b) 干渉じま
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図3 アハラノフ・ボームの実験
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微細加工技術を駆使することによって出来上がったサンプルを図3に示す.膜の特性を上手にコントロールすると,パーマロイの薄膜から四角いドーナツ形状を切り出しただけで,磁力線が内部をぐるぐる回って外に出て来ないようにすることができる.このサンプルに電子線を当て,孔の中と外の空間を通った電子線の位相を干渉じまの形で観察した.図3(b)に示した実験結果では,干渉じまが孔の中と外で6本分もずれており,AB効果は存在するという結果が得られた.