〔関口〕
 御紹介頂きました日経の関口でございます.

 私が今日申し上げたいのは,一言で申し上げますと日本のIT革命が非常に遅れている,それに非常に強い危機感を抱いているということであります.日本では,IT革命というのが言葉を変えて「構造改革」という,どちらかというと21世紀型というよりも20世紀型,あるいは19世紀型の構造改革をやろうというような雰囲気を感じてならないわけです.このタイミングでの構造改革は,ITを本当に我々の生活,経済の中に組み込んでいく必要があるのではないかと考えるわけであります.

 ITは数がポイントでありますから,参加する人が多ければ多いほどパワーが増していくわけであります.御承知のように海外には「華僑」といった形で中国系の方々がいらっしゃいますが,こういった方たちがネットワークを使って地球上に結集致しますと,今までの欧州,アメリカといった先進国の文化圏とは全く異なる文化圏が出てきてしまう.インターネットのドメイン名についても,2Byteの韓国語,日本語,中国語が認められるようになってきております.そうしますとアメリカ人,欧州人がアクセスできないページなんていうものも出てくるわけで,日本はその狭間にあってひょっとするとアジアの方が先に行ってしまうのではないかという危惧を抱いているわけであります.

 これを象徴しますように,先日,日経にも紹介されておりましたが,スイスのビジネススクールのIMDが発表した報告書によりますと,2001年で世界の競争力を見ますと,日本はなんと26位に落ちてしまった.1996年,バブルがはじけた直後ぐらいには世界第4位だったわけですが,あっという間に,この4,5年の間に26位まで落ちてしまった.その中で逆に伸びたところはアイルランドです.アイルランドは御承知のように人口370万人という小さな国で,主な資源は農業だったのですが,1980年代末ないしは1990年代に非常にITに特化した投資をしたところ,アメリカ,欧州からたくさんのIT企業がアイルランドに集まり,今や世界的に見ても大変なIT立国になってしまった.その結果,IMDの報告でも7位にきているわけであります.そういった中で日本はITをうまく活用しなかったがために,わずかこの5年の間に二流国になってしまったということが言えるわけです.

 サイバースペースの世界は収穫逓増の世界,従来の農業時代,工業時代とは基本的に原理原則が異なるという現実が出てきております.現実世界で何が大事な資源なのかを考えますと,農業社会は土地がまず基本で,そこで働く労働者,それから農薬を買うための資本力,こういった順番でリソースの重要度があったかと思います.工業化社会になりますと一番大事なのは工場設備になりますから,設備を賄うための資本力が大事になるわけで,ここからいわゆる産業資本主義というものが台頭してくるわけであります.

 今,我々が直面しております情報化社会というのは,実は土地も資本力も余り関係ないわけであります.というのは,新しいビジネスをやるときに幾らサーバをたくさん買っても大した金額にはならない,更にサーバを置く場所なんて限られているわけであります.すなわちサイバースペース上にビジネスを展開していく以上は,こういった土地とか資本というのは相対的に今までほど重要ではなくなってくる.一番大事なのはやはり人間の知恵,ノウハウ,先ほどもお話がありましたようにみんなが集まって新しいものを生み出す,そういう知恵とかノウハウとかソフトといったものが重要になってくるわけです.

 ですから,これをいかに高めていくかという形に我々の社会制度を改めないと,日本はこのままずるずると国際競争力を失っていくのではないかと思います.


〔宮内〕
 ありがとうございました.

 それでは,お待たせ致しました.公文先生,お願い致します.




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