まず,最初の問題ですが,スタートして2年半ぐらいしますと中間評価を受けるのです.私は被告席に立ちましていろいろ質問の矢を浴びるわけであります.そのための準備を各プロジェクトにお願いするのですが,カルチャーが違うのです.各プロジェクトに「成果を出して下さい」と申し上げると,「どこで発表した」,「どういう本を書いた」と.我々はそれを成果ではなく業績と言いますね.文系の場合,「どういう定理が証明できた」とか,「ナノテクノロジーで10ナノメートルが達成できた」とか,そういうような簡潔な結論は性格上なかなか出しにくいのです.

 定義も多義的,属人的になりがちだし,公理系を設定してその上に理論を構築していくというのは非常に難しい分野だなということをつくづく思います.それから,境界条件をきちんと決め,再現性をチェックすることもいわゆる文系の場合,非常に難しい.

 もう一つ難しいのは価値観や信念,あるいはイデオロギー.例えば,市場原理優先か,セーフティネットに重点をおくか,人によって違う考え方がいろいろある.それから,表現力は,理工系の場合それほど大きく影響しないけれども,文系の学問というのは思索の深さは長い文章でないと表現できないことも少なくない(表1).

表1 学問の特性─理工系vs.人文・社会系



 我々理工系の研究者も,あるパラダイムに安住して単線的研究を続けがちな点を反省するとともに,文系のプロジェクトでは,知的資産の社会への還元という観点からも,研究成果を近似的にでもよいから簡潔に表現する工夫も必要だと痛感しております.

 そして,文科系の学問というのは岩盤から構築するのは非常に難しいので,やはり総合化が大事です.一番基本のところを押さえてからなんていったら情報倫理なんかきりがないわけです.ですから,全体がうまく連携することができなければいけない.ワシントン周辺ではシンクタンクがいっぱいあって1 000人もの人がアメリカの国益のために脳髄を絞っているという話ですが,日本にはそういうものはないのです.これは非常に問題で,小渕さんに頼まれて何人かで半年ぐらいで作文するのではだめで,本当にきちんとやらなければいけない.eジャパンもいいですけれども,IT社会構築へ向けてもっと広く深くやらなければいけない.そんなようなことを考えております.


〔宮内〕
 ありがとうございました.それでは,関口先生お願いします.





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