■3. ネットワークを利用した学習の問題点


 外国語学習はコンピュータの利用が効果的である.近年,多くの大学で取り入れられているが,同じようなCALL (Computer Assisted Language Learning:コンピュータを利用した外国語学習)システムを利用した英語学習で,全く異なった結果が得られた2大学での事例を紹介し,ネットワークを利用した学習の本質と問題点を考えたい.

 ある国立大学では市販のCALLシステムを導入し,週1回,授業中に使用した.学習は学生がシステムに対峙し個別に行われ,教員は監視役に徹した.しかし,コンテンツそのものの数や難易度の段階が少ないこと,週1回の学習では成果が実感できないことなどから,モチベーションが持続できず,大量のドロップアウトを出した.また,監視役という役割に不満を示す教員もいて,この大学でのシステムの導入は失敗に終わった.

 もう一方の大学では,目を見張る成果が得られた.この大学では独自のCALLシステムを開発し,授業時間外に週2〜3回の集中学習を行わせた.また,教員のほかにメンターと呼ばれる補助者を配置し,目の行き届いたサポートを行った. 学生のモチベーションは持続され,リスニング,リーディング能力にもTOEIC得点で大幅な向上が見られ,従来半数以上といわれているドロップアウトもほとんど出なかった.

 この2大学での事例から,ネットワークを利用した学習システムの未来が垣間見える.ともすれば,e-Learningと呼ばれる学習システムの導入は,コスト削減を目的に遂行されることが多い.確かに,費用対効果を考慮することは重要であるが,それだけでは学習は成立しない.そこには大量のドロップアウト者が残されるだけである.学習者に対するサポート体制を確立できる,運用方法も視野に入れたシステム,あるいは,学習者同士の自律的な学習を促す学習コミュニティシステムの開発が求められている.


■4. 日本的ネットワークを利用した教育


 日本の大学の現状や大学生の学習スタイル,学力から,日本で積極的に取り入れられるネットワークを利用した学習とはどのようなものであろうか.

 第1に教員と学部学生のニーズに合った教授内容等の提供である.具体的には,

@ 1大学では収集困難な大量のコンテンツを必要とするような集中外国語学習

A 大学教員が得意としないリメディアル学習

 リメディアル学習においては,マルチメディアの利点を生かし,やさしい解説と分かりやすく工夫された画像を多用した教材が適している.更に,個別学習の利点を生かし,小刻みに質問を入れることにより学習者が理解しているかどうかを確認しながら講義を進める学習形態が求められている.

B 1大学では受講者が少ないが,多くの大学で必要とする教養や専門科目

 大学のとう汰が進む中で大学の経営戦略の建て直しが求められており,各学部学科にとって開講しなければならない科目であっても,受講者が少ないため専任教員が置けない状況も考えられ,この場合に大いに役立つことが予想される.

C 短期留学生等を対象とした日本語・日本事情や専門科目の外国語によるプログラム

 国際化の中で,各大学は従来の留学生に加え,1年間だけ滞在する短期留学生が増加している.日常生活レベルの日本語力では日本語による通常の授業を受けることが困難であるため,多くの大学で英語による授業が実施されており,共通に利用できる教科も多い.

D 公認会計士,弁護士を目指す学生のダブルスクール的コースや資格試験準備講座,あるいは,準看護婦が正看護婦になるため等の職業的必要性が高いコース

 などが考えられる.

 第2は社会人等を対象とした大学院のプログラム,第3は生涯学習プログラムなどであり,これらがインターネットを通じて大学や学生の元へ供給される日もそう遠いことではない.

 一例として,東京大学大学院情報学環は講義の一部をインターネットを通じて配信する「iii online」を4月より実施しているが,そのシステム開発及び配信をメディア教育開発センターが担当している.



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