電子情報通信学会会誌

Vol.85 No.9 pp.655-661
2002年9月

間瀬憲一 正員:フェロー 新潟大学工学部情報工学科

Scalable Admission Control Methods for the Internet.
By Kenichi MASE, Fellow (Faculty of Engineering, Niigata University, Niigata-shi, 950-2181 Japan).




インターネットにおけるスケーラブルなアドミッションコントロール方式




 インターネットの発展に伴い,QoS保証サービスのニーズが高まっている.従来のQoS保証のための枠組みであるIntServ/RSVPとDiffServのアプローチだけでは限界がある.特にスケーラブルなアドミッションコントロールの実現が重要である.このためのアプローチとして,IntServ over DiffServ,IntServ/RSVPの軽量化,エンドポイント方式等が提案されている.エンドポイント方式にはパッシブ方式とアクティブ方式がある.測定に基づくエンドツーエンドアドミッションコントロールはアクティブ方式に分類されるもので,有望なアプローチである.方式実現上のキーポイントとして,エンドポイントの構成と機能配分,プローブフローを用いたアドミッションコントロールのメカニズム等について解説する.

キーワード:アドミッションコントロール,インターネット,品質保証,スケーラブル

 

■1.は じ め に


 インターネットは元来,ベストエフォートサービスを提供するものであり,サービス品質(QoS:Quality of Service)の保証を提供するものではなかった.近年,インターネット接続事業者(ISP)はバックボーンネットワークのQoSをサービスレベルアグリーメント(SLA)の形で公表することが一般的になっているが,これは個々のアプリケーションに対応してエンドツーエンドのQoSを保証するものではない.インターネットが広はんにかつ日常的に利用されるようになり,個々のリアルタイムアプリケーションをネットワークレベルでサポートするエンドツーエンドのQoS保証サービスのニーズが高まっている.アプリケーションレベルで送信・受信者間にデータのフロー(アプリケーションフロー)が生ずると,ネットワークレベルで対応するデータのフロー(IPフロー)が生じ,ネットワークのリソースを使用する.ネットワークの容量が有限である以上,ネットワークはQoS保証サービスを要求するIPフロー(以下では単にフローまたはデータフローと記述)を無制限に受け付けるわけにはいかない.アプリケーションからの新たなリソース割当の要求をネットワークの容量が足りないにもかかわらず受け付ければ,そのアプリケーションからの新フローのみならず,既存フローのQoSも許容レベルより低下することになる.そこで,そのような場合には,新たなフローの接続要求を破棄し,既存フローのQoSを保護することが必要になる.これはアドミッションコントロールと呼ばれる.アドミッションコントロールのメカニズムは電話網に代表される回線交換網では明白である.インターネット等のコネクションレスのパケット交換網では,その機能はやや複雑化するものの,同様に考えられる.すなわち,新フローに対して,必要なリソース(帯域等)を割り当て,既存フローも含めたすべてのフローに要求されるQoSを達成できる場合に,その新フローを受け付ける.そうでない場合には,新フローの受付を拒否する.

 インターネットの技術標準化を行うIETFでは,QoS保証のための枠組みとして,IntServ/RSVP(1)とDiffServ(2)が検討されてきた.IntServ/RSVPでは,RSVPと呼ばれるシグナリングプロトコルを用いて,各ルータでフローに対してリソース予約を行う.フローは送信元,あて先のIPアドレスとポート番号及びプロトコルIDによって識別される.ルータはすべてのフローのリソース予約状態を保持する必要があり,大規模なネットワークでの利用には不向きとされる.すなわち,スケーラビリティ(規模拡張性)に難点がある.このため,規模が限定されるアクセスネットワークでの利用は可能であるが,ISP等のバックボーンネットワークでの利用は困難と考えられる.

 一方,DiffServでは,ネットワークの境界ルータでSLAに基づいてパケットのクラス分けと対応するマーク付け(DSCP)を行い,ネットワーク内のルータ(コアルータ)ではDSCPに基づいて,パケットの優先制御を行う.ルータはクラスを単位に集合化されたフロー(集合フロー)を扱うため,スケーラビリティが期待できる.複数のDiffServ管理ドメインからなるネットワークでは,SLAに基づき,ドメイン間のリソース割当を行うことにより,契約帯域以内の集合フローに対してパケットレベルのQoSを保証する.しかし,個々のフローに対してQoSを保証するものではない.個々のフローに対してQoSを保証するには,アドミッションコントロールの機能が必要である.これをIntServと同様なアプローチで行ったのでは,スケーラビリティの問題が解決されない.

 このような背景からスケーラブルなアドミッションコントロール方式の必要性が認識されている.本文では,スケーラブルなアドミッションコントロールの実現を目指した幾つかのアプローチを分類し,それぞれの特徴を示す. また,エンドツーエンド測定に基づくアドミッションコントロール方式については,方式実現上の重要なポイントを解説する.


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