■4. 面発光レーザとナノテクノロジー

 電子デバイスや半導体光デバイスはナノテクノロジーの宝庫といってもよい.光ネットワークや光メモリなど光エレクトロニクス発展に関し,光デバイス研究が常にそのフロンティア開拓を担ってきた.更に,情報基盤整備に光ファイバ網をはじめ大規模光エレクトロニクス技術に大きな期待が寄せられている.つまり,画像などの大量の情報を瞬時に伝送/処理する技術,空間並列的に情報を送る超並列光伝送システム,データの光による連携を行うデータネットワーク,複数のコンピュータやLSIチップ間を結ぶ並列光インタコネクト,更には光並列情報処理システムなど,が挙げられる.光の並列性を十分に生かしたシステムの実現には,大規模な二次元集積化ができる並列光デバイスが重要である.図4に示す面発光レーザ (VCSEL)は,現在世界数十か所の研究機関で精力的に研究開発されている.特にGbit/s以上の高速LAN用の光源あるいはコンピュータ間を光で結ぶ光インタコネクトへの応用が注目され,サブミリアンペアの低しきい値素子の実現や波長1μm付近の近赤外波長での商品化が進められている.

図4 ナノデバイスとしての面発光レーザ(VCSEL)

図4 ナノデバイスとしての面発光レーザ(VCSEL)



 面発光レーザのしきい値電流は2000年までの20年間ではおよそ4年で1けたの割合で減少しており,現状でも,既に市販の半導体レーザに比べて3けた以上小さいμA(10A)の領域に迫ろうとしている.このように,面発光レーザは,低消費電力デバイスの領域では水平共振器型の半導体レーザの特性を凌駕しており,今後多くのデバイスを必要とする超並列光エレクトロニクスを含む様々な応用が期待されている.それには,半導体結晶成長とナノプロセス技術の存在がバックボーンとなっている.

 半導体レーザのしきい値電流Iは,活性領域の体積Vに比例する.すなわち,

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体積Vaを通常のレーザの千分の一にもできるので,しきい値もそれだけ小さくできる.また,共振器長は長くても数波長であるから,連続波長掃引幅も使用波長の20%はとれる.

 半導体レーザの変調速度の目安になる緩和振動周波数は活性層体積の平方根に逆比例する,したがって,活性層体積が小さくなるにつれ,変調速度を大きくできる.面発光レーザのように低しきい値素子では,1mA程度での低電流動作での高速変調が可能である.実際に,GaInAs/GaAs系で10GHz以上のアナログ変調やゼロバイアスでの2.5Gbit/sのパルス変調が報告されている.筆者らは,量子井戸にp型のデルタドープしたGaInAs面発光レーザによって,10GHzに及ぶ変調特性や,10Gbit/sのNRZ変調と100mの多モード伝送によるビット誤り率測定なども行った.面発光レーザの高い変換効率や高速変調特性は特に低消費電力を要求される光インタコネクトにとって最も重要である.40Gbit/sの直接変調が一つのターゲットか.

 産業的にも,キガビットイーサネットには850nm帯の面発光レーザ搭載モジュールが量産に入り,10ギガビットイーサへの標準化が期待される.次世代の高速LANをにらんだ波長1,200〜1,300nm帯が研究ターゲットになっている.また,波長掃引特性をてこにした1,550nm帯のメトロポリタン網を起点とするハイエンドシステムへの挑戦が始まった.面発光レーザが起点となってフォトニック結晶,マイクロリング,ナノ粒子などを用いる極微細半導体レーザの研究が進展し,それらの元になるナノテクノロジーはますます重要になりつつある.一方,可視光・紫外領域の半導体光源にも著しい進展が見られ,面発光レーザによるセンシングや強力光の利用などが考えられ始めた.


■5. 展     望

 カーボンナノチューブなどのナノテクノロジーの分野の幾つかは,既に産業化の域に達しているものもある.ナノテクノロジーは単にスケールの問題ではない.それは概念(Concept)の問題でもある.ナノテクノロジーに多くの発見を試み,それを科学にし,ナノから我々の手の届くマクロへいかに集積していくか,などの手法獲得がこれから腕の見せ所である.

 謝辞 多くの貴重な資料を提供頂いた白川英樹総合科学技術会議議員,池澤直樹氏はじめ関係各位に深く感謝申し上げる.


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