■ 5. 次世代ミューチップの構造やアンテナ技術を研究

 無線タグ用のICチップの広範囲な応用に関し,世界中に開発促進機運をもたらせたミューチップであるが,日立製作所中央研究所においては,次世代のミューチップの研究も進んでいる.2003年2月のISSCC(International Solid-State Circuits Conference)で発表した両面電極型のミューチップである(6).ICチップサイズは0.3mm×0.3mm×0.06mmと,現状製品レベルよりも平面サイズ,厚さ共に更に小さくなっている.最大の特徴は超小型ICチップの表面と裏面にそれぞれ1個の電極を持っていることである.一般にICチップの複数の電極は片面にまとめられているが,ICチップが小さくなるにつれて,各電極のサイズや間隔を小さくする必要が出てくる.無線タグ用のICチップにおいては,2個の電極があれば,外部のアンテナと接続することが可能である.しかし,ICチップの小型化を進めていくと,電極問題がクローズアップしてくる.このことは,将来,ICチップとアンテナとの接続位置合せが困難となり,無線タグ用のICチップの更なる小型化への大きな制約となることを示している.この問題を解決するために,ICチップの表面に1個,裏面に1個の電極を持たせる両面電極ミューチップを提案し,試作して無線タグ用のIC動作に成功した.性能は片面取出し電極と同等である.裏面電極はIC基板の電位を直接取り出すことで簡潔に実現している.

 両面電極ICチップの場合,片面に複数の電極を置く必要がないため,超小型のICチップでも,その表面及び裏面の面積をフルに活用した電極を置くことができる.そのため,電極の面積を大きくとれ,アンテナとの接続信頼性を向上できる.また,送受信する電磁波は交流であるため,交流の電気プラグと同様,電極には極性がなく,ICチップが反転してアンテナに接続しても電気的動作に影響はない.更に,ICチップの水平回転や水平位置ずれに対して不問か許容度を大きくとれるため,高精度な位置合せ機構が不要となる.

 無線タグ用のICチップ開発においては,アンテナや組立技術とのバランスが重要である.ICチップの超小型化を推進しても,アンテナや組立に困難性が増加してしまってはICチップの超小型化のメリットが半減してしまう.図7は両面電極ミューチップのガラス封止アンテナ構造を示し,図8はサンドイッチアンテナ構造を示している.いずれも,ICチップ片面に2個の電極を持つ場合と比較して,ICチップの厳密な位置合せを不要としていることが分かる.また,サンドイッチアンテナ構造は一枚の導体基板を折り返す構造となっているのが特徴である.アンテナパターンの形成は,打ち抜き,印刷,エッチングなど多様な方法が考えられるが,本アンテナ構造では折り返し構造となっているため,アンテナパターンは片面導体基板でよいことが分かる.両面電極型ミューチップをアンテナに接続する場合は,まず,数千個単位の複数個のミューチップを位置合せプレート上に散布させ,そのプレート上にある多数の吸着溝に振動や真空吸着技術を活用することによりミューチップを1個ずつ吸着させる.余ったICチップは排出させることが必要であるが,ともかく,両面電極型ミューチップを短時間に数千個単位で整列させることは容易である.両面電極型ミューチップは表裏の概念が電気的にないため,整列においても,物理的に上下反転を考慮する必要がない.いったん整列を済ませたミューチップは,多数個単位でアンテナシートに同時転写される.この組立の具体的実現方法については,転写量,接続方法,アンテナ形状等で決まっていくものと考えられる.このように,ミューチップが究極の組立方法と考えられる同時組立向きICチップであることは興味深いことである.



図7 両面電極ミューチップのガラス封止アンテナ構造

図7 両面電極ミューチップのガラス封止アンテナ構造 
ガラス封止構造はダイオードの世界では高信頼性のある構造として定評がある.ミューチップはダイオードと同じように両面電極構造とすることができるので,ガラスダイオードの生産インフラを生かしたRFIDデバイスの製造が可能となる.リード線はアンテナとして活用できる.

 

図8 両面電極ミューチップのサンドイッチアンテナ構造

図8 両面電極ミューチップのサンドイッチアンテナ構造
電極がチップの両面にあるとチップの回転や厳密な位置合せに配慮しないで,アンテナ接続できる.また,上下反転しても電気的特性に影響がないので,ミューチップを粉末状に扱ったアンテナ接続への道が開かれる.


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