■4. 空間データの標準化活動の歴史と現状

 地理的な情報の標準はいろいろな側面から見られる.すなわち,

 (@) 空間データ基盤の情報の内容と構造の定義
 (A) 情報の具体的な言語記述法とそれに基づいたソフトウェア
 (B) 各種の応用技術に関するもの

等々.

 基盤部分の標準化についての話から始めよう.我が国では1985年に建設省(当時)国土地理院が「白地図データベース基準化協議会」を設けて地図情報の電子化の標準化を目指したのが,この方向の一つのエポックを画したといってよかろう(米国のUSGS(United States Geological Survey),英国のOrdnance Survey等でも似たような試みはなされていた).その後,地理情報に対する世の中の関心が高まるにつれ,またそれを扱うためのコンピュータのハードウェア・ソフトウェアの急速な進歩にも後押しされて,標準作りの試みは世界各国で着々と進んでいた.

 ちなみに,我が国では,1995年1月17日に起った阪神淡路大震災をきっかけとして,GISの重要性がそのころから再び認識されるようになり,1995年に政府の中に“GIS関係省庁連絡会議”が設置され,その活動の重要な柱の一つとして地理情報の標準化とその普及ということも取り上げられた.

 (@) を中心とした国際標準を作ろうという動きは8年くらい前から始まった.“Geographic Information/Geomatics”というタイトルでISOの中にTC211が1994年に設けられたが,当時は日本ではまだ関心が高くなかった.しかし,国土地理院を中心とする関係者はその重要性を先駆的に認識して,国内審議団体を作るべく努力し,1995年に(財)日本測量調査技術協会に事務局を置いた“ISO/TC211国内委員会”を発足させ,TC211に正式に加盟した.この国際的な活動には我が国からも産官学多数の専門家が積極的に献身的に参加・貢献してきた.ISO/TC211の作業項目は多岐にわたるが,現在それらのうち最初に取り上げられた重要な骨格部分約20項目はほぼIS(International Standard)化が完成に近づいている.そしてIS化されたものから順次JIS化されつつある.そうなる前から国内では,国際標準の流れを注視し,日本の国情にも配慮して,それらの項目をより具体的にしたものを“地理情報標準(JSGI=Japanese Standards of Geographic Information)”という名で作成し(現在第2版),政府のGIS関係省庁連絡会議ではこれを“国内技術標準”と位置付けて普及・定着を図っている.JSGIの具体的内容については本小特集の明野氏の稿に詳しい.なお,ISO/TC211の作業項目は作業の途中で一部は再整理され,また追加の“新作業項目”も次々と提案されるなどして,現在では約40項目になっている.

 「標準を制する者が産業を制する」という話があるが,そのような観点からも多くの人達が空間情報・地理情報関連の標準に関心を持ってきている.その中から幾つかを拾うと,まず,OGC(Open GIS Consortium)がある(これが米国の団体か国際的な団体かは,IEEEにも似て,はっきりしないが,米国は“Le monde, c'est Moi.”であろうから,建前上はともかく実質がはっきりしないのは致し方ないのかも).OGCではその活動の一つとしてGML(Geography Markup Language)の標準確立とその国際標準化への努力を行っている.GMLは次々と版を重ねているが,内容的にはISO/TC211が作っている標準と当然のことながら関係が深く,特にその一つの作業項目である“符号化”とかなり近いので,それとdouble standardにならないように現在調整中であり,近々結論が出ると期待されている.OGCのGMLとの統合とそれを通じての国際標準化を目標にして,我が国ではデータベース振興センター(DPC=Database Promotion Center, Japan)を中心にWeb環境を活用し手軽にすぐ動くGIS用プロトコル“G-XML”が開発されつつある.その詳細は本小特集の久保田,有川両氏の稿に詳しいが,その第2版が早々と2001年8月にJIS化されている(JIS X 7199:地理データ交換用XML符号化法)のは注目されるべきであろう.このような標準化の流れは上の分類でいけば (A) の観点からのものと見なせる.

 NATOやEU各国やCEN(Comité Européen de Normalisation;欧州標準化委員会)等もISO/TC211の活動には強い関心を持ち連絡を保っている.NATOの中の一つの作業グループであるDGIWG(Digital Geographic Information Working Group)が開発した規格DIGEST(Digital Geographic Information Exchange Standard)はNATO加盟諸国で使われている.

 (B) の観点からの標準化の動きも活発である.我が国での研究・開発が盛んな,カーナビ,ETC,自動運行,などの具体的なサービスを含むITS(Intelligent Transport System)に関連してはISO/TC204(Transport Information and Control Systems)がある.この国際的なTCに対して日本の国内審議団体は一つではなく,TC204の中にある多くのworking groupsの各々に対して一つずつ設けられている.その中の二,三のものは地理情報に密接に関係している.また,ISO/TC211の中にも比較的最近になってLBS(Location-Based Services)というキーワードを含む新作業項目が幾つか取り上げられてきている.GIS自体が本来“位置に関係した”,“位置に基づいた”情報システムであったはずなのに,特にLBSと銘打つにはそれだけの理由があるはずである.その意義や最近の流れについては本小特集の東明氏の稿を参照されたい.

 近ごろでこそ“ナビゲーション”という言葉がいろいろ異なる意味で広く使われるようになってきたが,この言葉はそもそもは「船などによる海洋航行(術)」を意味していた.当然のことながら,これこそ世界的な標準なり規則が必須な分野であり,IHO(International Hydrographic Organization)の標準の伝統は長い.IHOはISO/TC211とも協力関係にある.



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