■3. 光イメージングの歴史
3.1 生体光計測
1940年代には物理学者のG.A. ミリカンによって,人間の耳たぶで血液酸化状態の分光分析が行われた(4).これは光による完全無侵襲な血液の分析であり,今日の近赤外光による生体分析の多くの概念が既にこの時点で提示された.酸化・還元ヘモグロビンのスペクトルを用いて,耳たぶを通した光から血液の酸化・還元状態をin
vivoかつin situで分析できる.また,分光フィルタによって波長を分け,多波長分光法を用いて体内組織からの散乱光成分を除去した.登山家でもあったミリカンは先駆的業績を残したまま若くして世を去ったが,彼のオキシメータは当時生まれつつあった高所・航空医学に貢献した.その後,分光計測技術が進歩し近赤外領域まで拡張されたが,近赤外光トポグラフィーの原点はミリカンにあると考えている.
3.2 光CTと光トポグラフィー
図5に示すように,光CT(コンピュータトモグラフィー)と光トポグラフィーは異なった概念である(5).すなわち,光CTは光による断層撮影であり,一方の光トポグラフィーは大脳皮質機能を展開して撮像するものである.tomo-とはギリシャ語のtomosに由来し「切る」(cut,
section) を意味する.したがって,tomographyとは一般に用いられているように断層撮影法を指す.一方,topo-とはギリシャ語のtoposに由来し「場所」(place)
を意味する.topographyの原義は地勢図を指し,概念としては地図上の各点にもう一次元の情報を載せたものである.大脳皮質は半球状の脳の表層を形成しているが,各種の脳地図(機能地図,髄鞘化地図,解剖地図)を古くからトポグラフィックマッピング(topo-graphic
mapping, topogram) と称してきた.脳の近赤外分光イメージング(NIRSI) が,光CTから光トポグラフィーへと転換した理由は幾つかある.一つは,高次脳機能をつかさどる大脳皮質の計測が本質的に重要であるからであった.
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