2.2 イメージング法の比較

 図3に,各種の高次脳機能イメージング法について,およその空間分解能と時間分解能を示す.高次脳機能イメージング法は,まず,侵襲的方法と無侵襲的方法との二つの範ちゅうに大別されるが,人間に適用できる主要な無侵襲的脳機能イメージングは,上記のfMRI,近赤外光トポグラフィー,MEGの3種類である.PET(Positron Emission Tomography)とSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography) は開頭しなくてよいという視点からは無侵襲的であるが,放射性の造影剤を体内に注入する必要があることから,厳密には無侵襲の範ちゅうには入らない.


図3 高次脳機能計測法の比較

図3 高次脳機能計測法の比較


 侵襲的脳機能イメージングには開頭して計測する光学的多点法 (optical recording)がある.外因性 (extrin-sic) と内因性 (intrinsic) の信号を扱う二つの方法があり,特に電位感受性色素を用いる外因性信号による方法は,空間分解能・時間分解能共に優れている.しかし,開頭を必要とするので動物実験に限定される.

 また,高次脳機能イメージングには,神経活動を電界や磁界によって直接計測する方法と,神経活動にリンクする局所血行動態を計測する方法との二つの範ちゅうがある.MEG,脳波は前者であり,fMRI,近赤外光トポグラフィー,PET/SPECTは後者である.fMRIは局所の還元ヘモグロビン濃度変化を画像化する.近赤外光トポグラフィーは,局所の酸化型ヘモグロビン濃度,還元型ヘモグロビン濃度,両者の和(全ヘモグロビン:血液量),そして両者の比(酸化還元状態)を画像化できる.PET/SPECTは放射線トレーサによって局所の血流量を画像化する.また,侵襲的な光学的多点法のうち,外因性信号によるものは前者であり,内因性信号によるものは後者である.

 2.3 機能的磁気共鳴描画(fMRI)

 fMRIは1992年に原理の提案がなされたが,現在では脳科学にとってなくてはならない存在となっている(1),(2).その基本原理はBOLD 法であるが,これはBlood Oxygenation Level Dependent の略である.神経活動が活発になると,エネルギー消費が増えるため,グルコースと酸素を含む動脈血の供給が増大する.すなわち,局所血流量(rCBF)が増大する.その結果,毛細血管から静脈血が押し流され,静脈血に含まれる還元型ヘモグロビンの量が減少する.動脈血中の酸化ヘモグロビンは,他の多くの人体組織と同じ反磁性を示す.一方,静脈血中の還元ヘモグロビンは常磁性を示す.したがって,常磁性の還元型ヘモグロビンの量が減少することは,常磁性体の存在による磁界の乱れが減少することを意味し,MRIの信号強度を増大させる.この現象を用いて脳の神経活動を描画するのが一般のfMRIである.

 図4にfMRIによる体性感覚野の観察を示した.ペンフィールドのホムンクルスとは,脳の機能局在部位をデフォルメされた人の形状で示したものである.前頭葉と頭頂葉を分ける中心溝で展開すると,前頭葉側に運動野が分布し頭頂葉側に体性感覚野が分布する.両機能領野は中心溝を隔てて対をなし,また,互いに連携している.fMRIでは図4に示したように,体性感覚野を高い分解能で観測することができる.このデータは,fMRIの開発初期に東京大学医学部の宮下保司教授グループとの共同研究によって得られた.体性感覚野のfMRIによる最初の観測結果である(3)

図4 機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)による大脳体性感覚野の観察
  In collaboration with Y.Miyashita's Group

図4 機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)による大脳体性感覚野の観察  
 (ペンフィールドのホムンクルスと対応させて表示)



3/8

| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.