電子情報通信学会誌 Vol.87 No.7 pp.583-588 2004年7月

伊藤泰宏 正員 日本放送協会放送技術研究所
E-mail itou.y-ky@nhk.or.jp

Yasuhiro ITO, Member (Science and Technical Research Laboratories, JAPAN BROADCASTING CORPORATION, Tokyo, 157-8510 Japan).


地上ディジタル放送技術 伊藤泰宏

abstract   我が国の地上ディジタル放送方式であるISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting for Terrestrial)方式は,ハイビジョン番組,移動受信用番組,音声番組の放送やデータ放送などに対し,柔軟な帯域利用が可能で,欧米の方式に比べ多くの利点を有する.ここでは,関東・近畿の2大広域圏において2003年10月10日よりVHF帯で実用化試験放送が開始された地上ディジタル音声放送と,関東・中京・近畿の三大広域圏においてUHF帯で2003年12月1日より本放送が開始された地上ディジタルテレビ放送に関する最新の技術を解説する.
キーワード:ディジタル放送,OFDM,ISDB,ハイビジョン,HDTV,移動受信


 

■1. は じ め

 地上放送のディジタル化には,二つの意味合いがある.一つは国が推進しているIT(Information Technology:情報通信技術)戦略の柱としての位置付けであり,特にIT化のすそ野である「家庭におけるIT化の推進」に大きく寄与することが期待されている.二つ目は「電波の有効利用」である.2011年に地上アナログテレビ放送が終了し,地上ディジタル放送へ移行した後(図1),現在の地上アナログテレビ放送が使用している電波の一部は,移動通信などに活用される予定となっている.


図1  地上ディジタル放送のスケジュール

図1 地上ディジタル放送のスケジュール
地上ディジタル音声放送は2003年10月に関東,近畿において実用化試験放送を開始.地上ディジタルテレビ放送は2003年12月に関東,中京及び近畿の各広域圏において放送を開始.その後,順次エリアを拡大していく.


 地上ディジタル放送開始にあたっては,新たにディジタル放送用のチャネルが必要である.更に,地上ディジタル放送が十分普及するまでは,地上アナログ放送も継続して放送する必要がある.そのため,チャネルが混雑している地域などでは,ディジタルとアナログの電波が混信する場合がある.そのような地域では,混信が起きないよう現在のアナログ放送チャネルを別のチャネルに移動する必要がある.これが「アナログ周波数変更対策(アナアナ変更)」であり,全国で426万世帯が対象になるといわれている.地上ディジタル放送は,この対策が終わった地域から放送波が送信され,段階的にマイクロ波配信,放送波中継,光伝送などによりネットワークを構築しつつ(図2),エリアを拡大していく(1)

 

図2 地上ディジタル放送ネットワーク


図2 地上ディジタル放送ネットワーク
マイクロ波配信,放送波中継,光伝送などの技術を駆使して地上ディジタル放送を各家庭まで確実に送り届ける.


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