電子情報通信学会誌 Vol.87 No.9 pp.744-749 2004年9月

藤瀬雅行 正員 独立行政法人情報通信研究機構

Masayuki FUJISE, Member(National Institute of Information and Communications Technology, Yokosuka-shi, 239-0847 Japan).



ミリ波ITS通信システム 車をより安全で快適に 藤瀬雅行

abstract   より安全で快適な車社会を目指し,高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)に注目が集まっている.VICSやETC,あるいは車載レーダに見られるように,無線技術に支えられた車の環境はここ数年来著しい発展を遂げてきている.そして,安全性と快適性は渋滞緩和や事故防止に貢献し,エネルギーの消費軽減や地球環境保全の観点からも希求されている課題である.ここでは,次世代のITS情報通信技術として期待されている,ミリ波ITS通信システムの研究開発動向と技術課題について解説する.
キーワード:衝突防止レーダ,ミリ波通信,車々間通信,路車間通信,光ファイバ無線



■ 1. ま え が き

 より安全で快適な車社会を目指し,高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)に注目が集まっている.VICS(Vehicle Information and Communication System)やETC (Electronic Toll Collection),あるいは車載レーダに見られるように,無線技術に支えられた車の環境はここ数年来著しい発展を遂げてきている.そして,安全性と快適性は渋滞緩和や事故防止に貢献し,エネルギーの消費軽減や地球環境保全の観点からも希求されている課題である.これまでのITS無線システムには,主に準マイクロやマイクロ波が使われているが,利用可能な周波数帯が限られており多量の情報を瞬時にやり取りするような応用には,周波数にゆとりがあるミリ波の利用が期待されている.また,直進性が強いミリ波は他の無線システムとの干渉が少ないため,限定されたショートレンジのエリアでの無線通信システムには向いている.独立行政法人情報通信研究機構(旧通信総合研究所)では,民間の通信機メーカーと共同で,ミリ波車載レーダ通信統合システムやミリ波路車間通信システムの研究開発に取り組んでいる.ここでは,主にそれらの研究内容を紹介し,システム技術の視点から次世代ミリ波ITSの動向と技術課題について解説する.


■ 2. ミリ波車々間通信システム

 ITSにおいて,車同士の直接通信である車々間通信は,路車間通信とともに重要な役割を果たすと考えられている.例えば,交差点での出会い頭衝突防止等の手段とし,車々間通信システムが期待されているがいまだ実用には至っていない.一方,近年市販車の中には,衝突防止用の76GHzミリ波車載レーダを装備した車も出現してきており,ミリ波レーダや通信への期待が高まってきている.ここでは,このミリ波レーダ通信統合システムやミリ波車々間通信の研究開発例を紹介する.


 2.1 車載レーダ通信統合システム(Radarcomm)

 ミリ波の利用では,衝突防止車載レーダが既に実用化されているように技術的課題も次第に解決されつつある.ITS情報通信システムでは,マルチメディア通信のような大容量伝送システムと安全運転支援通信のような高信頼の小容量伝送が求められる.衝突防止車載レーダは安全運転支援の代表的なシステムであるが,このレーダに通信機能を付加したミリ波レーダ通信統合システムの研究開発が進められている(1)〜(3).ここではこのシステムを,Radar & Communications Systemを略して“Radarcomm”と呼ぶことにする.Radarcommでは,レーダと通信機能を併せ持つ本体と通信相手となる複数のトランスポンダからなる.図1にRadarcommの概念を示す.同図に示すように,トランスポンダを車の前後部,道路標識あるいは道路の要所等に取り付けることにより,衝突警報,電波標識,合分流支援,交差点右折支援等の安全運転支援に役立てることができる.右左折,加減速等の運転手の意志情報や道路標識の意味情報を伝えることにより,より安全な走行環境をもたらすことができる.このような使い方においては,トランスポンダからの情報はショートメッセージであり,低データ速度の簡便で低価格なトランスポンダで事足りる.


図1 レーダ通信統合システム(Radarcomm)

図1 レーダ通信統合システム(Radarcomm)

 


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